特集

連載 「あなたにもできる介護起業」
全国訪問介護協議会会長の荒井信雄さんによる介護起業指南をお伝えします。

第3回 起業体験記(1)

~家族からの冷たい目、一番苦しい時は孤独~
2011年7月20日
 孤独との闘い
 起業を決意したら、あとは着々と準備を進めていくしかありません。会社も退職して自分を守るものを失い、雇用したスタッフは自分が守っていくしかない、まさに背水の陣です。後戻りはできません。頭の中は、この起業が「失敗したらどうしよう」「成功したらうれしいだろうな」この2点だけです。

 まず、経営者は「孤独である」ことと「全責任は自分にある」ことを自覚する必要があります。重要な相談をする人もいないかわりに、お伺いを立てなくてはいけない誰かもいません。これはよいことであり、スリルに満ちたことでもあります。誰も何も教えてはくれないし、全責任は自分に降りかかってくるのです。

 また、会社の名前も肩書きもなくなりますので、世間の対応も変わります。私も、会社に所属している時は、役所の部長クラスに面談するにも苦労したことはありませんでした。ところが、新規事業者として自治体の介護保険課長に挨拶をしようと面談を申し入れると、いとも簡単に断られてしまいました。この悔しさを「決して忘れない」と心に誓ったと共に、世間の現実を痛感しました。

 欠かせない、家族の理解
 もう1つ、本項で書きたいことは家族の理解です。これがないといくら当人に才能があり実力があっても成功しないでしょう。

 私の場合、「なぜ起業するのか」から始め半年がかりで妻を説得しました。また、事業が失敗する可能性もあるので、妻の父親と会って説明もしました。これをていねいに行わないと、「一人で勝手にやった」「協力できない」などということになってしまいます。このプロセスを大切にしたたつもりでも、いざ繁忙期に入ると「家のことを何も考えてない」などという非難を浴びました。

 さらに、勤め先を失い、被雇用者ではなくなると同時に収入もほとんどなくなったので、家庭における立場も変わりました。

 何よりもつらかったことは、妻に「このままでは、家が破産する」と何度も言われることでした。資金繰りが計画通りだったとしても、毎月減っていくキャッシュしか見えない妻にとっては、直感として死活問題だったのでしょう。

 思いがあって、がんばって起業という事業に取り組んでいるつもりでも、家族からひんしゅくを買うことにはストレスを感じていました。しかし、あるときこう割り切りました。「家族の意図とは関係なく私が起業を決めた、それなのに、このリスクを家族も抱えている。これは私が至らないからなのだ……」。このストレスを乗り切るには、そう考えるしかありませんでした。

 成果をかたちに
 先が見えずに不安で最も苦しく、雑事に追われて最も忙しい時期は、世間の冷たい目に悩まされ、家族からもひんしゅくを買い続けて落ち込むものです。そして、売上が軌道にのって収入が増えてくると、周囲も家族も自分の事業展開に理解を示し協力してくれるようになります。これは、私だけでなく一般的な展開のようです。

 成果が、「かたち」になって表れないと世間は認めてくれません。そして、そのことがこの事業を自分の事業として推し進めていこうという自信にもつながるのです。

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荒井 信雄 (あらい のぶお)
株式会社さくらケア代表取締役社長。
全国訪問介護協議会会長。
大学卒業後、アパレル企業、大手介護企業を経て、株式会社さくらケアを起業。さくらケア上町居宅介護支援・訪問介護事務所などを運営するほか、訪問介護企業支援、訪問介護収益改善支援、訪問介護M&A支援にもあたる。著書に『今しかできない介護起業』(税務経理協会、共著)、『訪問介護事業・居宅介護支援事業成功の法則』(税務経理協会)。

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