特集

介護保険制度改正について
平成26年6月に介護保険法の改正案が成立し、平成27年4月以降、順次施行されます。 wel.ne.jpでは介護保険制度の改正内容や今後の動向などの特集記事を随時、掲載していきます。

第9回 「新しい介護予防・日常生活支援総合事業」における「高額介護サービス費相当事業」、「高額医療合算介護予防サービス相当事業」について

2015年3月12日
 「地域包括ケアシステムの構築と費用負担の公平化」を目指して、「平成27年度介護保険制度改正」が行われます。(「平成27年度介護保険制度改正」の概要は、以下の特集記事を参照して下さい。)
「特集記事:第1回 平成27年度介護保険制度の改正内容について」

 当特集記事では、特に介護保険サービス利用者、介護保険サービス事業者、市町村等に影響の大きい改正内容を中心に、「平成27年度介護保険制度改正」の詳細内容を解説していきます。

 今回は、全国介護保険担当課長会議(平成26年11月10日)等で提示された資料を基に、「新しい介護予防・日常生活支援総合事業」(以下、「総合事業」と記載)における「高額介護サービス費相当事業」、「高額医療合算介護予防サービス相当事業」に関する内容を解説します。

参考資料のリンク先)全国介護保険担当課長会議資料(平成26年11月10日開催)
1.新しい総合事業等について
〔再掲〕介護予防・日常生活支援総合事業のガイドライン(案)

参考資料のリンク先)介護保険最新情報Vol417(平成27年2月4日掲載)
〔再掲〕介護予防・日常生活支援総合事業のガイドライン(案)

 「高額介護サービス費相当事業」、「高額医療合算介護予防サービス相当事業」の計算式の参考例について、以下の資料が提示されています。当資料を踏まえて、「高額介護サービス費相当事業」、「高額医療合算介護予防サービス相当事業」の内容を解説します。


(クリックすると画像が拡大)
資料:全国介護保険担当課長会議資料(平成26年11月10日開催)「〔再掲〕介護予防・日常生活支援総合事業のガイドライン(案)」から転載


用語集


当特集記事で使用される用語は以下の通りです。

□「高額介護サービス費」関連

「介護サービス費自己負担額」
1ヶ月に利用した介護保険サービスの利用者負担合計額(同じ世帯に複数の利用者がいる場合は、世帯合計額)。

「負担上限額(介護)」
「介護サービス費自己負担額」における、利用者負担の上限額。
※「高額介護サービス費相当事業」の利用者負担の上限額も同じ金額が想定されているため、当特集記事では、「高額介護サービス費」と「高額介護サービス費相当」の利用者負担の上限額を「負担上限額(介護)」で示します。


(クリックすると画像が拡大)
平成27年8月以降の負担上限額イメージ


「高額介護サービス費」
「介護サービス費自己負担額」が「負担上限額(介護)」を超えた場合に、高額サービス費の申請を行うことにより、「負担上限額(介護)」を超えた分が利用者へ払い戻される金額。

「高額介護サービス費調整後の介護サービス費自己負担額」
「介護サービス費自己負担額」から「高額介護サービス費」を除いた金額。


□「高額介護サービス費相当事業」関連

「総合事業自己負担額」
1ヶ月に利用した「総合事業」の利用者負担合計額。

「高額介護サービス費相当」
「高額介護サービス費調整後の介護サービス費自己負担額」と「総合事業自己負担額」の合計が「負担上限額(介護)」を超えた場合に、「高額介護サービス費相当事業」の申請を行うことにより「負担上限額(介護)」を超えた分が利用者へ払い戻される金額。

「高額介護サービス費相当調整後の総合事業自己負担額」
「総合事業自己負担額」から「高額介護サービス費相当」を除いた金額。


□「高額医療・高額介護合算療養費制度」関連

「医療サービス費自己負担額」
1年間に利用した医療保険の利用者負担合計額(同じ世帯に複数の利用者がいる場合は、世帯合計額)。

「負担上限額(医療)」
「医療サービス費自己負担額」における、利用者負担の上限額。

「高額療養費」
「医療サービス費自己負担額」が「負担上限額(医療)」を超えた場合に、高額療養費の申請を行うことにより、「負担上限額(医療)」を超えた分が利用者へ払い戻される金額。

「高額療養費調整後の医療サービス費自己負担額」
「医療サービス費自己負担額」から「高額療養費」を除いた金額。

「負担上限額(合算)」
「高額医療・高額介護合算療養費制度」における、利用者負担の上限額。
※「高額医療合算介護予防サービス費相当事業」の利用者負担の上限額も同じ金額が想定されるため、当特集記事では、「高額医療・高額介護合算療養費制度」と「高額医療合算介護予防サービス費相当事業」の利用者負担の上限額を「負担上限額(合算)」で示します。

「高額医療合算介護(介護予防)サービス費」
1年間にかかった医療保険と介護保険の自己負担額の合計が「負担上限額(合算)」を超えた場合に、「高額医療・高額介護合算療養費」の申請を行うことにより、「負担上限額(合算)」を超えた分が利用者へ払い戻される金額。

「高額医療合算介護予防サービス費相当」
1年間にかかった医療保険、介護保険、総合事業の自己負担額合計から「高額医療合算介護(介護予防)サービス費」を差し引いた額が、「負担上限額(合算)」を超えた場合に、「高額医療合算介護予防サービス費相当事業」の申請を行うことにより、「負担上限額(合算)」を超えた分が利用者へ払い戻される金額。


「高額介護サービス費相当事業」の内容


 介護保険サービスを利用した際に、1ヶ月の自己負担額が一定の上限額を超えている場合、「高額介護サービス費」として、自己負担額の一部が払い戻されます。
 
 「総合事業」においても、利用者負担の影響を考慮し、「高額介護サービス費相当事業」が実施される見込みです。

「高額介護サービス費相当事業」の対象サービス
「総合事業」における「高額介護サービス費相当事業」の対象サービスについて、以下の内容が示されています。

 ○「訪問介護(現行の「介護予防訪問介護」相当サービス)」
 ○「通所介護(現行の「介護予防通所介護」相当サービス)」
 ○「緩和した基準によるサービス(指定事業者を使用したサービス)」


「高額介護サービス費相当事業」の計算方法
「総合事業」における「高額介護サービス費相当事業」の計算方法について、以下の内容が示されています。

<計算方法の考え方>
「総合事業自己負担額」を含めずに「高額介護サービス費」の支給計算を行います。
その後、「高額介護サービス費調整後の介護サービス費自己負担額」と「総合事業の自己負担額」を基に「高額介護サービス費相当」の支給計算を行います。

<計算式>
(1)「高額介護サービス費」の支給計算
[計算式]
 『介護サービス費自己負担額』-『負担上限額(介護)』=『高額介護サービス費』

(2)「高額介護サービス費相当」の支給計算
[計算式]
 (『介護サービス費自己負担額』-『高額介護サービス費』)+『総合事業自己負担額』
 -『負担上限額(介護)』= 『高額介護サービス費相当』

≪計算例1:「高額介護サービス費相当」のパターンに該当≫
夫(要介護2):月800単位のサービス(8,000円) ※訪問看護サービス
妻(要支援2):月2,000単位のサービス(20,000円)※総合事業サービス
※高額介護サービス費の負担上限額は24,600円

(1)「高額介護サービス費」の支給計算
 8,000円 - 24,600円 < 0
⇒『介護サービス費自己負担額』が 『負担上限額(介護)』よりも小さいため、「高額介護サービス費」の支給対象外となります。

(2)「高額介護サービス費相当」の支給計算
 (8,000円 - 0円) + 20,000円 - 24,600円 = 3,400円
⇒ 『高額介護サービス費調整後の介護サービス費自己負担額』と『総合事業自己負担額』を合計した額が『負担上限額(介護)』よりも大きいため、「総合事業」の「高額介護サービス費相当」として、3,400円支給されます。

≪計算例2:「高額介護サービス費」、「高額介護サービス費相当」のパターンに該当≫
夫(要介護2):月3,000単位のサービス(30,000円)※訪問看護サービス
妻(要支援2):月2,000単位のサービス(20,000円) ※総合事業サービス
※高額介護サービス費の負担上限額は24,600円

(1)「高額介護サービス費」の支給計算
 30,000円-24,600円 = 5,400円
⇒『介護サービス費自己負担額』が 『負担上限額(介護)』よりも大きいため、「高額介護サービス費」として、5,400円支給されます。


(2)「高額介護サービス費相当」の支給計算
 (30,000円-5,400円)+ 20,000円-24,600円 = 20,000円
⇒ 『高額介護サービス費調整後の介護サービス費自己負担額』と『総合事業自己負担額』を合計した額が『負担上限額(介護)』よりも大きいため、「総合事業」の「高額介護サービス費相当」として、20,000円支給されます。


「高額介護サービス費相当事業」の支給の流れ
「総合事業」における「高額介護サービス費相当事業」の支給の流れについて、以下の資料が示されています。


(クリックすると画像が拡大)
資料:全国介護保険担当課長会議資料(平成26年11月10日開催)「1.新しい総合事業等について」から転載



「高額医療合算介護予防サービス相当事業」の内容


 1年間の医療保険と介護保険における自己負担額合計が一定の上限額を超えている場合、「高額医療・高額介護合算療養費(※)」として、自己負担額の一部が払い戻されます。
※介護保険に関わる部分は、「高額医療合算介護(介護予防)サービス費」として支給されます。

 「総合事業」で支払った自己負担額についても、市町村は利用者負担の軽減に配慮した事業を行うことが適当とされており、市町村の判断により、「高額医療合算介護予防サービス費相当事業」が実施されます。

「高額医療合算介護予防サービス費相当事業」の計算方法
「総合事業」における「高額医療合算介護予防サービス費相当事業」の計算方法について、以下の内容が示されています。

<計算方法の考え方>
「総合事業自己負担額」を含めずに「高額医療合算介護(介護予防)サービス費」の支給計算を行います。その後、「総合事業自己負担額」を基に「高額医療合算介護予防サービス費相当」の支給計算を行います。

<計算式>
(1)「高額医療合算介護(介護予防)サービス費」の支給計算。
[計算式]
 (『介護サービス費自己負担額』-『高額介護サービス費』)
+(『医療サービス費自己負担額』-『高額療養費』)-『負担上限額(合算)』
=『高額医療合算介護(介護予防)サービス費』

(2)「高額医療合算介護予防サービス費相当」の支給計算。
[計算式]
 (『介護サービス費自己負担額』-『高額介護サービス費』)
+(『医療サービス費自己負担額』-『高額療養費』)
+(『総合事業自己負担額』-『高額介護サービス費相当』)
- 『高額医療合算介護(介護予防)サービス費』-『負担上限額(合算)』
= 『高額医療合算介護予防サービス費相当』

<計算例:「高額医療合算介護予防サービス費相当」のパターンに該当>
夫(要介護2):介護で月800単位のサービス(8,000円) ※訪問看護サービス
          医療で年90,000円
妻(要支援2):介護で月2,000単位のサービス(20,000円)※総合事業サービス
         医療で年80,000円
※高額介護サービス費の負担上限額は24,600円(1ヶ月の上限額)
※高額医療合算介護(介護予防)サービス費の負担上限額は310,000円(1年間の上限額)

(1)「高額医療合算介護(介護予防)サービス費」の支給計算
 96,000円(8,000円×12ヶ月)+ 90,000円 + 80,000円 = 266,000円
 266,000円 < 310,000円
⇒『高額介護サービス費調整後の介護サービス費自己負担額』と『高額療養費調整後の医療サービス費自己負担額』を合計した額が『負担上限額(合算)』よりも小さいため、「高額医療合算介護(介護予防)サービス費」の支給対象外となります。

(2)「高額医療合算介護予防サービス費相当」の支給計算
 (295,200円(24,600円×12ヶ月※)+ 90,000円 + 80,000円 = 465,200円
※『介護サービス費自己負担額』と『総合事業自己負担額』の合計が「高額介護サービス費相当」に該当するため、1ヶ月の自己負担額は24,600円として計算しています。
  465,200円 - 310,000円 = 155,200円
⇒『高額介護サービス費調整後の介護サービス費自己負担額』『高額療養費調整後の医療サービス費自己負担額』『高額介護サービス費相当調整後の総合事業自己負担額』を合計した額が『負担上限額(合算)』よりも大きいため、「総合事業」の「高額医療合算介護予防サービス費相当」として、155,200円支給されます。

<注意>
 上記例の場合、『高額介護サービス費調整後の介護サービス費自己負担額』と『高額療養費調整後の医療サービス費自己負担額』を合計した額では、「高額医療合算介護(介護予防)サービス費」の対象にならず、『高額介護サービス費調整後の介護サービス費自己負担額』と『高額療養費調整後の医療サービス費自己負担額』から更に『高額介護サービス費相当調整後の総合事業自己負担額』を合計した額において、「高額医療合算介護予防サービス費相当」に該当した場合、「医療保険」から「高額医療・高額介護合算療養費」としての支給は行われず、「総合事業」から「高額医療合算介護予防サービス費相当」として支給されることになります。


「総合事業」における「高額医療合算介護予防サービス費相当事業」支給の流れ
「総合事業」における「高額医療合算介護予防サービス費相当事業」の支給の流れで特に注意が必要な内容を以下に解説します。

○「勧奨通知発行」「自己負担額証明書発行」における注意事項
医療保険側で「高額医療・高額介護合算療養費」の支給額計算を行う際に、「総合事業」の自己負担額は含まれません。

そのため、これまで「高額医療・高額介護合算療養費」の該当者と判断されていた人において、「総合事業」の自己負担額が支給額計算の対象から除かれることにより、「高額医療・高額介護合算療養費」の勧奨通知が送られないことが想定されます。

市町村は、上記対象者における申請の勧奨を行う場合、医療保険側から国保連合会を介して「支給額計算結果連絡票」が送付されるため、「支給額計算結果連絡票」を基に「総合事業」の自己負担額を含めて、支給額計算を行い、申請を促す事務を行うことが想定されています。
(下記イメージ資料「別紙 ※2参照」)


(クリックすると画像が拡大)
資料:介護保険最新情報Vol.417(平成27年2月4日掲載)「「介護予防・日常生活支援総合事業ガイドライン案」についての Q&A について」から転載


○「支給申請~決定」における注意事項
・「高額医療・高額介護合算療養費」の計算対象期間中に転出を行っている対象者は、計算対象期間中に所在していた市町村分の「自己負担額証明書(介護保険分、総合事業分)」を用意し、医療保険者へ申請します。

医療保険者は申請で受け付けた「自己負担額証明書」のうち、「自己負担額証明書(総合事業分)」を介護保険者である市町村へ渡します。
 (下記イメージ資料「別紙 ※4、※7参照」)

・医療保険側で「高額医療・高額介護合算療養費」の支給額計算を行いますが、勧奨通知事務と同様に、「総合事業」の自己負担額情報は医療保険側へ引き渡されないことにより、これまで「高額医療・高額介護合算療養費」を支給されていた対象者が、不支給と判定されることがあります。

その場合、医療保険側では不支給決定通知書が交付され、介護保険者である市町村側で「総合事業」の自己負担額を踏まえた「高額医療合算介護予防サービス費相当」の支給決定通知書が交付されることを、介護保険者である市町村は被保険者へ事前に説明する必要があります。
 (下記イメージ資料「別紙 ※5参照」)

・「自己負担額証明書(総合事業分)」を交付している対象者の場合、介護保険者である市町村は、国保連合会から送付された「支給額計算結果連絡票」を基に支給は行えません。

「自己負担額証明書(総合事業分)」を交付した方のうち、転出者か否かで次の通り、処理を行うことになります。
 (下記イメージ資料「別紙 ※6、※7、※8参照」)

「自己負担額証明書(総合事業分)」を交付した人が転出者ではない場合
介護保険者である市町村が「総合事業」の自己負担額を踏まえて、支給額計算の情報を行い、支給決定を行います。

「自己負担額証明書(総合事業分)」を交付した人が転出者の場合
介護保険者である市町村において、市町村(転出元)で交付された「自己負担額証明書(総合事業分)」を含めて「高額医療合算介護予防サービス費相当事業」の支給額計算を行います。その後、介護保険者である市町村から送付される支給結果(支給額計算結果連絡票)の情報を基に、市町村(転出元)で、支給を行います。


(クリックすると画像が拡大)
資料:介護保険最新情報Vol.417(平成27年2月4日掲載)「「介護予防・日常生活支援総合事業ガイドライン案」についての Q&A について」から転載



まとめ


 「新しい介護予防・日常生活支援総合事業」で利用したサービスの利用者負担を軽減するため、「高額介護サービス費相当事業」が実施される見込みであり、「高額医療合算介護予防サービス相当事業」も市町村の判断により、実施することが望ましいとされています。

 市町村は、「新しい介護予防・日常生活支援総合事業」に実施と合わせて、「高額介護サービス費相当事業」、「高額医療合算介護予防サービス相当事業」の検討を行うことになります。

 特に「高額医療合算介護予防サービス相当事業」を実施する市町村の場合、これまでは、国保連合会から送付された情報を基に「高額医療合算介護(介護予防)サービス費」の支給が行えましたが、今後は、「総合事業」の自己負担額の情報を基に、市町村が支給を行うことになるため、事務運用について検討する必要があります。

※当記事は全国介護保険担当課長会議(平成26年11月10日開催)、介護保険最新情報Vol417(平成27年2月4日掲載)の提示資料を基に作成をしています。今後、介護保険制度改正の本施行までに、記載内容が異なる可能性があります。

添付


全国介護保険担当課長会議(平成26年11月10日開催)
1.新しい総合事業等について - PDFファイル
「〔再掲〕介護予防・日常生活支援総合事業のガイドライン(案)」 - PDFファイル

介護保険最新情報Vol417(平成27年2月4日掲載)
「介護予防・日常生活支援総合事業ガイドライン案」についての Q&A について - PDFファイル

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