特集

インタビュー 「ケアの現場から」
ソーシャルケア研究所・本間清文さんの監修で、ケアの現場のさまざまな職種の声を届けていきます。

第4回 「やっぱり、家に帰してよかった」

内田欣吾さん(訪問介護) 後編
2011年8月10日
前回から引き続き、埼玉県鳩ヶ谷市にあるケアヤング有限会社で訪問介護と居宅介護支援にあたる、内田欣吾さんのインタビューをお届けします。
聞き手は、この連載で監修者としてご協力いただく、独立型の居宅介護支援所「介護支援所ファイト」(東京都中野区)の本間清文さんです。
※個人情報保護のため、一部、フィクションを加えています


 病院の許可も得ていない状況で、介護を受けるお父さんと、実際に介護にあたる娘さんが、ともに、家での最期を望んでいる。病院側は無茶だと言う。そのとき、娘さんの「退院許可が下りた」という連絡に、ストレッチャー(車輪付きベッド)を持って病院へ迎えに行った内田さんは――。

内田欣吾さん
内田:そのときふと、傍の、当事者であるはずのお父さんに目をやると、僕に訴えかけてきたんです。目で、というか身体全体で、というか、「自分は絶対帰る、今日じゃなきゃダメなんだ」って。その気持ちが伝わってきちゃった。

 何度も娘さんの通院で病院へ行っていたから、僕がストレッチャーを持っていることは知っていたんですね。それで、「こいつは使える」と思っていたんじゃないですか。

 そこで、「本人が家に帰りたくても、やっぱり帰すことはできないのですか」と交渉を始めてしまいました。

本間:病院から、退院は無理だと言われているところ、本人の気持ちを代弁して病院と掛け合うというのは、なかなか勇気の要ることですね。

内田:僕も、絶対に怒られると思いました。でも、お父さんの気持ちがわかってしまった以上、どうにかしなくてはいけない気持ちで必死でした。そしたら、看護師さんが先生と相談してくれて、先生から「3日くらいしか持たないだろうし、かなり無茶だけど、そこまで本人が希望しているのなら……」と退院許可が得られたのです。それでは、と僕はお父さんをストレッチャーに乗せて、自宅に帰しました。

 自宅に帰ったのはいいけれど、やっぱり先生の言ったとおり、お父さんは水も飲めない状態です。娘さんは「私は、父を最期まで見届けたいから、身体に鞭を打ってでも介護を続ける」と言っていました。僕もケアマネさんから、オムツ交換などでお父さんのケアにも入るよう依頼されました。そうはいっても、寝返りもできず、痛みもひどく、オムツ交換は大変でした。お父さんも「自分は家で死ぬ、といったけど、こんなに苦しいと思わなかった」という心境だったのでしょう、絶叫していましたね。娘さんも疲れ果て、特に腰への負担が大きくて、日々日々やつれていく。大丈夫かなぁ、って娘さんのことも心配しながら、退院から2週間ほどして、血便が出たのかな、お父さんは亡くなりました。僕が駆けつけたときは、既に運ばれた後でした。

本間清文さん
本間:娘さん、思い通り、家で見送ったわけですね。

内田:そうはいっても、お父さんも娘さんも、もっといえば僕も、本当に大変でした。今になってみれば、笑い話というか「あのとき大変だったよね」と娘さんと話せるんですけれど、そのときは大変でした。お父さんが亡くなった後の娘さんの沈みようもすごかったですし。それでもあのとき、やっぱり、家に帰してよかったな、って今になって思います。

 それから、2~3か月して、娘さんから「これ父の形見です。父が生前『俺が死んだら、いつも来てくれるヘルパーさんに渡してくれ』といったものですから、と、お父さんが若い頃から愛用していた時計をくださいました。とても経済的に厳しい家庭だったので、お父さんにとっては唯一の高価な貴重品だったのではないかと思います。今でも大事にしています。

本間:そういったご経験があって、現在の内田さんがあるのですねぇ。さて、同じ訪問介護でも、障がい者と高齢者で利用者による違いはありますか。

内田:やることも援助の仕方も同じですが、対話の仕方が全然違う。お年寄りはどんな人でも「死ぬ」ということがちらほら見えるんです。ご本人が「遠くない死」を自覚していて、関わっていると、どう死にたいのか、プランのようなものがわかってくる。

本間:なるほど。内田さんは今後、ケアとどう向き合っていくことを考えていますか。

内田:訪問介護事業でできることは、ルールがあって決まっているけれど、もっとお年寄りを深く援助していきたいです。

本間:「深く」というのは……。

内田:もっと生活全体を見ていきたい。それが僕の理想です。訪問介護は、どうしても部分的なサービスでしか関われないので。

本間:そうですか。では、今後のビジョンのようなものはありますか。

内田:地域と、もっと強く連携していきたいですね。他の介護サービス、特養や老健もそうですが、他の訪問介護事業所もそうだし……。どこそこの事業所や施設にどういう人・スタッフがいて、どういうふうにケアと関わって、何を思って働いているんだろう・介護の仕事をしているんだろう、そういうことをやっぱり、もっと知りたいですね、市役所を含めて。

本間:なるほど、なるほど。そうですよね、お互いの情報が不足していては、いざというときのチームワークもなかなかうまくいきませんからね。どうもありがとうございました。

(おわり)

訪問介護事業所ケアヤング


プロフィール
内田 欣吾(うちだ きんご)
ケアヤング有限会社・介護福祉士。 デザイン系の専門学校卒業後、デザイン会社勤務。 その後、民間患者搬送会社、世田谷区内の特別養護老人ホームでの勤務を経て、埼玉県鳩ヶ谷市にて訪問介護事業所を開設。


ケア現場の質を高め、ケア関係職の地位待遇を向上するためには、現場で起きていることを社会に発信するソーシャルアクションや高齢者のアドボカシー(代弁)が欠かせません。「ケアの現場から」では、あなたの身近に起こったケア現場でのエピソードや想いを、本間清文氏がインタビュー形式で聞かせていただきます。ご希望の方はこちらからお問い合わせください。

※2011年6月2日取材

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