特集

インタビュー 「ケアの現場から」
ソーシャルケア研究所・本間清文さんの監修で、ケアの現場のさまざまな職種の声を届けていきます。

第3回 「いつの間にか、介護の仕事の魅力に」

内田欣吾さん(訪問介護) 前編
2011年7月8日
今回と次回は、埼玉県鳩ヶ谷市にあるケアヤング有限会社で訪問介護と居宅介護支援にあたる、内田欣吾さんのインタビューです。聞き手は、この連載で監修者としてご協力いただく、独立型の居宅介護支援所「介護支援所ファイト」(東京都中野区)の本間清文さんにお願いしました。
※個人情報保護のため、一部、フィクションを加えています

本間清文さん
本間:内田さんは、どんなふうにケアの仕事と出会っていったのですか。

内田:23歳くらいの時、せっかく専門学校にも通ったのに1年半足らずで、仕事は厳しいし給料安いし休みがないし徹夜続きだし、とデザイン関連の仕事を辞めてしまいました。しばらくぶらぶらして、就職情報誌で「お年寄りの入浴サービス、送迎添乗員募集」という求人を見つけて、「何これ、なんだか楽そうな仕事だな」と思っておもしろ半分に面接を受けたら、人手不足ですぐに採用されました。まだ、介護保険制度が施行される前のことです。

 しかも、実際やってみて、休憩時間は長いし、楽だったんです。お年寄りと仕事で関わることが自分にとって落ち着く、しっくりくる、とでもいえばいいのかな。そして、3年くらい続けていると、その地域のあらゆる施設を訪ねることになり、施設の仕事に興味がわいてきました。

本間:何がおもしろそうだったのですか。

内田:さらに楽そうだな、と思って……。送迎に行くとお年寄りと職員が話をしていて、のんびりとした時間が流れている。その頃は、「もう少し福祉の仕事をして、ゆくゆくはデザイン関連の仕事に戻ろう、その前に施設の仕事もちょっと経験してみよう」と考えていました。そして、ホームヘルパー2級の資格を取得して、入浴送迎の会社から介護施設へと勤務先を変えました。

 そのうち、介護の仕事は自分自身と折り合いがついて、自分の仕事だと思えるようになりました。うまく言えないんですけれど、いつの間にか、介護の仕事の魅力に取り憑かれちゃったみたいです。

本間:ケアの仕事をしてこられたなかで、印象深い方はいらっしゃいますか。

内田欣吾さん
内田:そうですねぇ。たくさんいらっしゃるのですが……。

 経済的にはとても厳しく、高齢の父と娘で暮らす2人の家庭がありました。私たちは、娘さんの訪問介護に関わっていて、お父さんは月に一度他事業所の訪問入浴サービスを受けていました。その家には何度も訪問し、お父さんとも接触する機会はありました。とはいえ、うちがサービスを提供しているわけでもなく、挨拶程度の関わりしかありませんでした。それでも娘さんから、お父さんが「絶対家で死にたい」「病院の世話になるのも嫌だ」といっていることは聞いていました。

 あるとき、お父さんがお腹の急な激痛を訴えたので、救急車を呼んで入院しました。入院して何日かすると、娘さんから電話がありました。「父は家で死にたがっているのに、病院が退院させてくれない。内田さん、父を家に帰らせてくれませんか」って。僕、介護タクシーも業務にしているから、ストレッチャー(車輪付きベッド)を持っていることも娘さんは知っていたんです。でも、そんな無茶なことできません。「『退院していい』という許可が出たらストレッチャーを持って迎えに行きますから、病院と一度ちゃんと話し合ってください」となだめました。

 しばらく経って、娘さんが「内田さん、父は退院してもいいっていわれました。だから、明日病院へ来てください」と連絡してきたのです。そこで、翌日、病院に行きました。病室に入り、ふとお父さんをみると、意識はしっかりしていて、会話もできそうでした。

「もう退院していいんですってね」と声を掛けると、娘さんは「そうなんです! もう準備はできているし、父を乗せて帰りましょう」というわけです。そこで、お父さんをストレッチャーに乗せようとすると、看護師さんが駆けつけて「何をなさるおつもりですか?!」と大変驚かれました。実は看護師は退院していいというのは娘さんのつくり話だったのです。

 僕も驚いてしまって、娘さんに「全然話が通ってないじゃないですか!!」と。それでも、娘さんの気持ちは固く、「退院するんですよ」としか言わない。言い張るわけです。さすがに僕も「いやぁ、病院の許可なく退院するなんて止めたほうがいいでしょう。無理です。僕としてもできません」と言ったんです。

(つづく)

訪問介護事業所ケアヤング


プロフィール
内田 欣吾(うちだ きんご)
ケアヤング有限会社・介護福祉士。 デザイン系の専門学校卒業後、デザイン会社勤務。 その後、民間患者搬送会社、世田谷区内の特別養護老人ホームでの勤務を経て、埼玉県鳩ヶ谷市にて訪問介護事業所を開設。


ケア現場の質を高め、ケア関係職の地位待遇を向上するためには、現場で起きていることを社会に発信するソーシャルアクションや高齢者のアドボカシー(代弁)が欠かせません。「ケアの現場から」では、あなたの身近に起こったケア現場でのエピソードや想いを、本間清文氏がインタビュー形式で聞かせていただきます。ご希望の方はこちらからお問い合わせください。

※2011年6月2日取材

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