特集

アンカー通信 「社会福祉士にできること」
成年後見制度の普及・啓発に取り組むアンカーが、幅広く福祉・社会保障の分野を話題にします。

第17回 法人後見の普及を願って

2012年5月18日
経緯
 私は、日本社会福祉士会ぱあとなあの一員として、長年、後見業務(個人後見)に従事してきました。私の所属する“ぱあとなあ神奈川”から、受任について最初の打診があったのは2002年5月ですから、それからちょうど10年になります。私が横浜市某区の福祉事務所長だった時です。ちなみに主な利用者は、資力が乏しく報酬が支払えないために引受け手がいないとされていた方々でした。

 それ以来、私には資力が乏しい方でも利用出来る成年後見制度がテーマ[1]になりました。同じく社会福祉士として、後見業務に従事していた福祉事務所時代の仲間らと語らい、個人後見の限界を踏まえ、今度は法人後見を行うための特定非営利活動法人よこはま成年後見つばさ[2](以下、つばさ)を2011年10月に立ち上げ、本年2月に最初の受任を行うことが出来ました。それは、横浜市内では初めてのNPO法人としての法人後見となりました。

 つばさに結集したメンバー[3]は、設立当初は全員が横浜市の元職員及び現役の職員でした。福祉事務所や児童相談所、保健所等でケースワーカーとして働いた経験のある者です。横浜市は、40年来ケースワーカーなどを社会福祉職として採用する全国でも稀な自治体です。また、メンバーの約半数は、社会福祉士でもあります。

統計
 最高裁判所の平成23年の統計[4]によれば、成年後見人等と本人との関係は、総数29,522件のうち、親族が55.6%、親族以外の第三者の成年後見人等は、44.4%です。そのうち法人は、1,122件(社協340件 その他法人782件)で全体のたった3.6%です。説明するまでもありませんが、民法では、法人を成年後見人等に選任することも想定しています。(民法第843条第4項)
 なお、最高裁判所の統計で法人後見の内訳を社協とその他法人に分けて集計したのは注目に値します。

法人後見のメリット
 では何故法人後見が普及してこなかったのでしょうか。それを考える前に、まず法人後見のメリットを説明します。

私たちは、法人設立の趣旨書[5]に次の6点を書きました。
1.後見業務の継続性、永続性
2.困難事例へのチーム対応
3.経験上のスキルや情報交換による一定水準の業務
4.スーパーバイズやチェックによる適正な業務
5.地域のネットワークの活用と連携
6.法人の情報公開や透明性

 その他に、担当者の負担の軽減や交代が可能などのメリットがあると言われています。当然デメリットも指摘されています。例えば、顔が見えなくなるとか責任が曖昧になる、意思決定が遅くなる等です。

法人後見への姿勢
 新しい成年後見制度が導入され、10年以上が経過していますので、さすがに法人後見を真正面から否定する考えにはあまり出会いませんが、家裁[6]や専門職団体などはとても慎重です。日本社会福祉士会の発行した成年後見実務マニュアル(P.21)などを読むとそれが窺われます。

~基本的な考え方~
・成年後見は、自然人による個人後見が基本であり、それが本来の望ましい形です。
・成年後見の困難性や長期性は、複数後見や後見監督人等を選任することでカバーできる場合もあります。
・同様に資力の乏しい人の後見制度利用は、成年後見制度利用支援事業を用いて助成を受ける方法もあります。
・これらの方法を活用して、個人後見が可能であるか、そのためのサポート体制をどうするかをまず検討しそれが無理な場合に法人後見を検討すべきでしょう。

 こうした考え方が根底にある以上は、法人後見が普及するはずがないとも言えるでしょう。悲しいことですが、普及へ向けての努力を望むことは難しいのが現状なのです。

 そういえば、社会福祉士がぱあとなあに所属して、後見業務を行う場合には日本社会福祉士会が保険会社とタイアップして作った損害賠償保険への加入を義務付けられますが、社会福祉士による法人後見のための保険は用意されていません。基本的な考え方を貫徹していることが見て取れます。従って、社会福祉士が集って新たに法人後見を目指す場合には、損害賠償保険加入の問題が、大きな壁になって立ちはだかります。

今後について
 増加する認知症高齢者、知的障がい者、精神障がい者などによる成年後見制度へのニーズの高まりは、「後見爆発」と言われます。それに対して、担い手の育成、整備は喫緊の課題です。その一環として国は、老人福祉法を改正(平成24年4月1日施行)[7]し、各自治体は市民後見人の養成にも踏み出しました。

 今後の成年後見制度の普及には、弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職後見人によるのはもとより、市民後見と法人後見が鍵を握っていると私は思います。

 2011年10月26日(水)神奈川新聞は社説[8]で、「モデルケースとなる取り組みを進めてほしい。」と書きました。また、2012年2月20日(月)TBSニュースバードが成年後見制度を特集し、つばさを取り上げてくれました。スタジオにゲスト出演した成年後見法学会の新井誠教授は、法人後見は後見の社会化をもっとも具現化したもので、つばさは良い例だと評価されました。

 どのような分野でも、利用者が主体です。利用者やそのご家族がサービス提供者を選ぶのが本来の姿です。前述の成年後見実務マニュアルにある「地域において、さまざまな主体による成年後見の受け皿があることは、利用者の状況にあった的確な成年後見人等が選ばれる上で必要なことです」という言葉には、まったく同感です。

 「成年後見は本来自然人によるべき」かどうかは別にして、私たちは法人として、判断能力の不十分な方々の保護と権利擁護のために、後見業務の質の向上に一層努めることで多くの人への期待に応えたいと思います。
 必ずや家庭裁判所や行政も法人後見を理解し、強力にバックアップしてくれる時代が来るものと信じています。また、そうなるように努力したいと思っています。

緊急アピール
届け!生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会に
判断能力の不十分な方々の権利擁護のために
成年後見制度に関わる生活保護法改正(意見表明)

特別部会
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000008f07.html#shingi12
意見表明
http://www.ne.jp/asahi/suda/yuki/tubasa/iken.html


[注釈]
1 ^ 資力が乏しくとも使える成年後見制度を目指して http://www.ne.jp/asahi/suda/yuki/anchor/siryoku.html
2 ^ 特定非営利活動法人 よこはま成年後見 つばさ http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/02/0223/npo-etsuran/guide/gu3175.html
3 ^ 2012年4月現在 会員21名 賛助会員11名 アドバイザー1名
会員・アドバイザー内訳(重複)
社会福祉士12名 社会福祉主事9名 精神保健福祉士1名 介護支援専門員14名
社会保険労務士1名 司法書士1名
4 ^ 成年後見関係事件の概況 http://www.courts.go.jp/vcms_lf/koukengikyou_h23.pdf
5 ^ 特定非営利活動法人 よこはま成年後見 つばさ 設立趣旨書 http://www.ne.jp/asahi/suda/yuki/tubasa/seturitu.html
6 ^ 横浜家庭裁判所の内規では、NPO法人による法人後見の場合は、当初1年間受任は1件で、弁護士が成年後見監督人になるとされています。
7 ^ 市町村において成年後見人等を確保するために http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/shiminkouken/index.html
8 ^ 神奈川新聞社説 成年後見制度 権利擁護へ普及推進を http://www.ne.jp/asahi/suda/yuki/tubasa/pdf/kanagawa.pdf


特定非営利活動法人 よこはま成年後見 つばさ
理事長 須田幸隆


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