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アンカー通信 「社会福祉士にできること」
成年後見制度の普及・啓発に取り組むアンカーが、幅広く福祉・社会保障の分野を話題にします。

第12回 横浜市障害者後見的支援制度(前編)

~ 横浜発の新風!? ~
2011年11月30日
はじめに
 横浜市は神奈川県東部に位置する人口370万人弱の政令指定都市です。幕末から明治にかけて日本開国の拠点となり、西洋の技術や情報をいち早く取り入れ、新時代始まりの地であったこの横浜で、平成22年4月に障がい福祉分野での新たな取り組みが始まりました。

 それは「在宅心身障害者手当」を廃止し、その財源を活用した「将来にわたるあんしん施策」というものでした。中でも注目なのが「横浜市障害者後見的支援制度」です。成年後見制度においても「財産管理」とともに後見人の職務である「身上監護」は重要な職務です。

 本来は被後見人等の生活、そして尊厳を守るために必要な「身上監護」を適切に執行するために「財産管理」はなされるべきなのですが、ともすると“後見人等の職務は「財産管理」である”と解釈され、「身上監護」は付随する職務と考えられがちです。

 障がいのある人やその家族は成年後見制度の利用を検討するにあたり、この点を危惧しています。つまり、成年後見制度にも公的サービスにも「本人の日常生活を見守る仕組みがないこと」が問題なのです。

 この横浜での新たな取り組みは、あたたかで生き生きとした地域生活の基盤を作り、成年後見制度と伴走する仕組みへと成長し、全国へ向けての風をおこすことができるでしょうか。

 ここでは横浜市の新たな取り組みであるこの施策の概略および現状・課題について紹介します。

「将来にわたるあんしん施策」とは
 横浜市では、障がいがあっても「地域でいきいきと暮らしたい」と願う市民のために、「障害者を見守る人的支援の仕組み」や「医療的ケア(*)の必要な障害児・者のための拠点づくり」、「地域で障害児・者の移動を支える取組」という、3つの取り組みを平成22年度から段階的に実施する事業を推進しています。

 詳しくは、横浜市の健康福祉局障害福祉部のページ
 http://www.city.yokohama.lg.jp/kenko/shogai/anshinpt/

「あんしん施策」ができるまで
 平成22年度に廃止された横浜市の「在宅心身障害者手当」は、障がいのある方への在宅福祉施策がほとんど無かった昭和48年につくられた制度です。その後の35年間で福祉施策や社会資源など、とりまく環境は大きく変わりました。

 障害基礎年金が創設されたり、グループホームや地域作業所・地域活動ホーム、ホームヘルプなどの在宅福祉のサービスが拡充されたりと、障がいのある人もない人も同じように“普通の生活”ができることを目指した取り組みが進められて来ました。けれどもその一方では、社会・経済活動の状況の変化とサービス利用に伴う費用負担の課題、障がいのある方の障がい像の多様化やライフスタイルの変化などにより“サービスがあるのに使えない”ケースが急増している課題等を踏まえて、制度の見直しが必要となっていました。

 横浜市は「横浜市障害者プラン(第2期)」(計画期間:平成21年~26年)の策定にあたり、先のプラン(第1期、平成16年~20年)の検証結果とあわせて、アンケートやグループインタビューなどのニーズ把握調査を実施し、障がいのある方やその家族から真に求められている施策展開をめざしての検討が行われました。その結果、“将来にわたって安心して生活し続けることができる”ための施策が最も望まれていることがわかったのです。

 こうして、個人に支給する手当を、障がいのある人や家族の多くが切実に求めている「親亡き後の生活の安心」をも含め「地域で安心して暮らし続けられる仕組み」や「障害者の高齢化・重度化への対応」などの必要な施策に転換すべきだという方向が決まりました。

それは条例から始まった…「横浜市後見的支援を要する障害者支援条例」
 そもそも、「将来にわたるあんしん施策」ができる前に横浜市には通称「あんしん条例」と言われる条例が出来ていました。平成13年のことです※【資料1】。当時はこのような広報がなされ【資料2】、カラー刷りのリーフレットも作られていました。
 けれども、この条例は実際に障がいのある当事者やその家族にはあまり広まりませんでした。積極的なPRや事業展開がなされず、また条例を基に作られた「後見的支援を要する障害者の緊急対応登録事業」【資料3】も実際には使いにくいものだったためです。

 例えば当時「登録者の条件」は“親が65歳以上である”とされていたのでした(現在は「40歳以上」に変更されています)。さらに、登録しておく“いざという時の対応者”を当事者や親など家族側があらかじめ探さなければならなかったのです。
 この条例は制定された当初から、単なる理念条例に終わってしまうのではないかと懸念されており、本来なら「将来にわたるあんしん施策」の検討はもっと早くに必要だったとの声もあります。

資料1.http://www.city.yokohama.jp/me/reiki/honbun/g2021261001.html
資料2.http://www2.city.yokohama.jp/pls/qa/main.detail?p_b=9999999780
資料3.http://www.city.yokohama.lg.jp/kenko/shogai/sodan/kenri/mado7.html


(*)医療的ケア…口から食べたり、呼吸をする機能が十分でなかったりして、それらを助けたり補ったりする行為や道具を使う障がい児者が増えています。専用のカテーテルを胃まで通して(または胃ろうの手術を受けて)そこから栄養を注入したり、のどや鼻の孔の痰などの分泌物を吸引器という機械を使って吸い取る行為は、医療職による「医療行為」とされて来ました。しかし、これらのケアを片時も欠かすことができない障がい児者には、家族、つまり無資格者が家庭で日常的に「医療行為」を行っています。このような実態を反映し、医療職が病院などで行う「医療行為」とは区別して「医療的ケア」と呼ぶようになっています。


(つづく)

(一般社団法人成年後見事務所アンカー 斎藤聡子)


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