成年後見制度の現状と課題

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 新しい成年後見制度が始まって5年経過した。制度発足以来、申立件数も年々増加し、登記件数は5万件を超え、制度の必要性と理解は年々深まってきたように見受けられる。しかし、高齢者だけに限っていえば、160万人いると推計される認知症高齢者の数からすると成年後見制度を利用している認知症高齢者は、産経新聞の報道によると3万人に留まっているi。現在でもニーズがあっても制度に結びついていない高齢者がかなりにのぼるといえる。しかも、2015年までに認知症高齢者は250万人iiに増加すると推計されている。また、障害者の自立支援法が成立したことから、今後潜在的な制度利用の必要性がある人が大幅に増加すると見込まれる。

 ところが、現実には、成年後見を必要とする人がなかなかこの制度の利用に結び付かないことが多い。成年後見制度の問題と諸課題については、司法関係者、司法書士や弁護士、そして社会福祉士らの調査研究により明確になってきている。また、日本弁護士連合会(以下日弁連)司法書士会が今年度になって相次いで改善提案を行っている。これらの議論を踏まえ、本論では成年後見制度の現状と課題について簡単に述べていきたい。

1.成年後見制度の概況

 平成12年の民法改正により、新しい成年後見制度が始まった。以来、申立件数は制度発足以来順調にその数を伸ばし、登記件数も5万件を超えた。ここでは、最高裁判所の概況報告を参考に、成年後見制度利用の概要を述べる。

 まず、年齢については大きな変動は見られないので表は省略するが、平成16年度では本人が65歳以上のものが、男性45%、女性72%を占める。高齢者の利用が大多数であるということがわかる。

 次に、表①の申立件数をみると、平成12年には9,007件であった申立は平成15年度までは毎年二桁台で増加し続けたが、平成16年度は前年よりわずかの増加にとどまった。今後の申立件数の増加率を見ずに判断できない側面もあるが、制度利用を支援する新たな公的制度などがなければ申立件数は横ばいを続けると予測される。任意後見契約の登記件数は、平成12年度801件から年々増加し、平成16年度には3805件となっている。このうち任意後見監督人選任件数は平成16年度で234件と毎年選任件数は増加しつつあるものの、数は少ない。

 表②は審理期間について示したものである。3ヶ月以内に終局した事件が16年度は51%、4ヶ月以内が67%と年々短縮している。また、1ヶ月以内に審理が終局した事件も平成16年度の10.8%とわずかながら昨年度より増加している。なお、平成14年度に審理期間が長引いたのは、申立件数が大幅に増加したことも影響していると考えられる。

 表③は申立人と本人との関係について示したものである。申立人は子の占める割合が一番高く、平成16年度で36%を占める。次いで、兄弟姉妹19%、本人の親13%、配偶者が11%の順になっている。この順は毎年ほぼ同様の傾向で推移しているが、わずかながらその他の親族や市町村長などの申立が増加してきたのは、身寄りのない、あるいは親戚とのつきあいがない独居高齢者が増加してきたことが背景にあるのではないかと考察される。なお、市町村申立については、平成15年度の437件と比較し、平成16年度は509件と増加傾向にある。この背景には、平成13年から厚生労働省が開始した「成年後見制度利用支援事業」の利用が広がってきたことが挙げられる。

 表④は申立の動機について示したものである。申立動機は財産管理処分が一番多く、平成16年度では59%であった。次いで身上監護、遺産分割協議との順である。この順は毎年同様であるが、身上監護を理由とする申立の割合がわずかながら少しずつ増加している。

 表⑤は鑑定費用について示したものである。全体の約90%が10万以下で鑑定を行っている。また、表には示していないが、鑑定期間は平成16年度で1ヶ月以内が全体の41%、1ヶ月を超えて2ヶ月以内のものが全体の39%となっている。

 表⑥-1は後見人と本人の関係について、表⑥-2は第三者後見人の職種別統計である。まず、後見人として選任されるのは子が一番多く、平成16年度は30%を占め、次いで本人の兄弟姉妹17%、親11%、その他の親族13%、配偶者9%の順である。親族の占める割合は約80%にのぼる。しかし、一方で弁護士やその他親族以外の後見人に占める割合も毎年増加している。第三者後見人としては、弁護士の他司法書士、社会福祉士などの専門職及び元家庭裁判所調査官などが選任されている。その人数であるが、司法書士が一番多く1,179人(8.1%)、次に弁護士、社会福祉士、法人の順である。中でも平成16年度の前年比伸び率について、社会福祉士は405人で前年比29%、法人後見は98件で前年比約38%増加している。

成年後見事件の概況(平成14年4月から平成17年3月)について

表①申立件数について

  申立合計 後見開始 補佐開始 補助開始 任意後見監督人の選任 任意後見契約の締結
H16年度 17,246 14,532 1,687 784 243 3,805
H15年度 17,086 14,462 1,627 805 192 2,521
H14年度 15,151 12,746 1,521 737 147 1,801
H13年度 11,088 9,297 1,043 645 103 1,106
H12年度 9,007 7,451 884 621 51 801
表②審理期間
  1ヶ月以内 2ヶ月以内 3ヶ月以内 4ヶ月以内 5ヶ月以内 6ヶ月以内 6ヶ月以上
H16年度 10.8% 21.1% 19.3% 15.4% 10.7% 7.3% 15.5%
H15年度 9.4% 19.1% 17.7% 15.3% 11.5% 8.6% 18.4%
H14年度 7.5% 16.0% 16.7% 16.2% 12.5% 9.4% 21.7%
H13年度 5.9% 13.8% 15.6% 15.3% 12.9% 10.2% 26.2%
H12年度 8.3% 16.9% 17.5% 18.5% 14.0% 10.2% 14.5%
表③申立人と本人との関係について
   本人 配偶者 兄弟姉妹 その他親族 法定代理人・任意後見人等 市町村長
H16年度 4.0% 11.1% 12.7% 36.1% 18.9% 13.2% 0.2% 3.0%
H15年度 3.5% 12.4% 13.3% 35.8% 18.8% 12.9% 0.2% 2.5%
H14年度 3.4% 14.0% 11.2% 37.4% 18.7% 12.8% 0.6% 1.9%
H13年度 3.4% 15.7% 9.2% 38.7% 19.2% 12.0% 0.7% 1.1%
H12年度 2.9% 18.9% 9.7% 39.9% 17.1% 10.6% 0.4% 0.5%
表④申立動機について
  財産管理処分 遺産分割協議 訴訟手続等 介護保険契約 身上監護 その他
H16年度 58.7% 9.3% 3.7% 3.6% 19.1% 5.7%
H15年度 60.1% 9.4% 3.5% 3.8% 17.4% 5.8%
H14年度 60.4% 9.9% 3.9% 3.4% 18.7% 3.7%
H13年度 63.2% 11.3% 4.7% 2.2% 16.7% 1.9%
H12年度 62.5% 11.5% 5.2% 2.0% 15.9% 2.9%
表⑤鑑定費用について
  5万円以下 5万円~
10万円
10万円~
15万円
15万円~
20万円
20万円以上
H16年度 40.4% 56.8% 2.1% 0.4% 0.2%
H15年度 37.2% 60.0% 2.2% 0.5% 0.1%
H14年度 35.6% 60.3% 3.4% 0.6% 0.1%
H13年度 30.0% 62.6% 4.9% 2.0% 0.5%
H12年度 25.3% 64.5% 6.7% 2.3% 1.2%
表⑥-1 後見人等と本人の関係について
  兄弟姉妹 配偶者 その他親族 弁護士 知人 法人 その他親族外
H16年度 11.3% 29.5% 16.8% 9.4% 12.5% 7.2% 0.7% 0.7% 11.9%
H15年度 12.5% 29.2% 16.9% 10.8% 13.1% 6.6% 0.7% 0.5% 9.7%
H14年度 10.7% 30.8% 17.2% 12.7% 12.7% 7.0% 0.7% 0.6% 7.6%
H13年度 8.5% 32.6% 17.6% 14.2% 13.0% 7.7% 0.9% 0.6% 4.9%
H12年度 9.6% 34.5% 16.1% 18.6% 12.1% 4.6% 0.9% 0.4% 3.2%
表⑥-2 親族以外の第三者後見人の選任状況(平成16年度)
  件数 割合 前年件数 前年割合
弁護士 1,060 7.2% 952 6.6%
司法書士 1,179 8.1% 999 7.0%
社会福祉士 405 2.5% 313 2.2%
法人 98 0.7% 71 0.5%
(最高裁判所事務総局家庭局 「成年後見関係事件の概況」をもとに作成)

2.成年後見制度の問題と課題

(1) 申立手続

① 申立手続書類

 成年後見制度の利用に関し、手続きの煩雑さを指摘する声が多い。本人に関する提出書類を何種類も揃えなければならないこと、しかも申立人が家族の場合、書類を取り寄せるのに時間を費やすことになる。例えば申立書類の一つに戸籍附票が必要である。取り寄せに手間がかかる上、必ずしも本人の変更履歴を把握できるものではないため、日弁連の意見書には、住民票で足りるとすべきであるとの提言もあるiii。また、診断書の問題も利用を阻む要因のひとつとなっている。診断書は鑑定とは別に、確認的資料として提出しなければならないが、知的障害者の場合は通院歴がない者も多い上、診断書を書いてくれる医師がいないケースも散見される。この件についても、日弁連は療育手帳を診断書にとってかえることができないかと述べている。

②費用について

 立費用の額についても、現場が制度になかなかうまく繋げない要因のひとつである。現在申立に必要な事務費は収入印紙800円、連絡用の郵便切手代、登記印紙4000円である。その他申請に必要な診断書や戸籍などの書類の費用を合計すると1万円程度はかかる。その上に鑑定費用が必要である。鑑定費用は前述のとおり、ほとんどの事件で10万円以下となっており、旧制度に比べ、非常に低廉化されている。しかし、申請時の費用や通信・交通費なども合計すると、低所得者にとってまだまだ気楽に出せる額ではない。しかも、第三者の専門家が後見人に選任されたときの報酬の支払いも含めて、成年後見に係る諸費用は利用の妨げになっている。特に生活保護の受給者に対して公的な扶助が認められていないことは問題である。

 また、申立費用に関して法律では、受益者である本人が支払うのではなく、申立人が負担すると規定される。遠縁の親族の場合は申立を躊躇することも多く、問題になっている。なお、申立費用については家裁裁判所の判断で本人に負担を命ずることができる。

③ 市町村長申立

 申立に関わる一番大きな問題として市町村長申立の問題がある。成年後見制度が平成12年に創設された当初、身寄りのない痴呆性高齢者などが増加していることを受け、親族などの法定後見の申立が望めない場合に対応するため、市町村長に申立権が与えられた。しかし、厚生労働省は、市町村申立は「親族がいないか、いても協力を得られないとき」を要件とするとの指針を示したため、市町村では4親等以内の親族の生存を確認した上で意向確認を行っている。平成17年6月に親族調査を2親等以内までよいという方針を打ち出したが、まだ各市町村の成年後見制度利用支援要項改正には至っていない。そのため、親族捜しに時間を費やす間、本人は放置される上、行政職員をはじめとする関係者はこのような手続きを敬遠するような結果にもつながっている。また、親族がみつかっても説得できず、結局成年後見制度の利用をあきらめざるを得ない結果につながっている。

 市町村申立の概況を述べると、平成16年の統計によると、市町村長申立は509件と前年度より16%増加したと報告されている。しかし、まだ全体の3.0%に過ぎず、表⑦に示されるように、都市部では比較的件数が多いが、宮崎、函館、徳島家裁は0件など、地域によって件数のばらつきがある。ちなみに、毎日新聞の報道によると、平成16年4月の時点で成年後見利用支援事業を実施している市町村は全国の自治体の約2割弱で、最も少なかったのが秋田県(1.4%)、岡山県(2.6%)、宮城県(4.3%)。最も多かったのは、大阪府(79.5%)、神奈川県(56.8%)、東京都(53.2%)であった。

④ 審理期間

 審理に時間がかかる点も問題である。統計では審理期間は年々短縮され、3ヶ月以内に約60%の審理が終局しているが、必要な調査内容により事件によっては6ヶ月以上かかることもある。審判前の保全財産保全処分などを申し立てておけば緊急な事態に対応できるというものの、審理期間の短縮は課題であろう。

(2)後見人等の選任と後見事務

① 後見人等の選任

 後見人等には前述したように、約80%の事件において親族が選任される。親族が後見人をする長所としては無償で引き受けている場合が多いこと、近しい関係にあるためきめ細かい身上監護ができることなどの利点が挙げられる。しかし、その反面不正行為や権利侵害が行われる場合もあるため、安易な選任は危険である。例えば、認知症の高齢者の財産を後見人としての立場を利用して息子が好き放題に浪費した任意後見の事例など、問題となる事例は多いiv

 一方、法定後見の場合、第三者の選任は申立人からの指定がない限り家裁の判断によって行われる。第三者後見には専門職が選任されることから、財産を使い込む可能性は低い。専門職の選任基準に関し、親族間に争いがあるケースや不動産など財産処分の必要があるケース、紛争性が高いケース等は弁護士や司法書士といった司法の専門家が選任されている。一方、身寄りがなく、精神面でのサポートのニーズを持つなど、成年後見制度の運用上における身上監護の範囲を超えるようなケースワークが必要、低所得で支払能力がないケースについては、社会福祉士が選任されている。ただし、家族による権利侵害が心配される場合、第三者の専門家を後見人として選任するメリットは大きいが、きめ細かい身上監護についてはあまり期待できないと思われる。

 法人後見については、制度発足以来、司法書士会、成年後見センター・リーガルサポートが行ってきた。最近では、社会福祉協議会や社会福祉士会などでも法人後見を始めている。法人後見が行われるケースとしては、長期的な後見を必要とするケース、支払能力に欠けるため適当な後見人がみつからないケース、個人が受任するには負担がかかりすぎるケース等が挙げられる。法人後見は持続性や受任者の負担軽減という長所もあるが、組織内の意志決定が迅速に行えないこと、後見事務担当者の責任の所在が曖昧になることなど制度運用上の問題が挙げられる。また、法人後見を行う事務所を運営していく経費も軽視できない負担となっている。神奈川県内では横浜生活あんしんセンターが平成12年4月より法人後見業務を開始しているv

② 成年後見にかかる費用

 第三者が後見人等になる場合、本人は財産の中から報酬を支払わなければならない。報酬額は、家裁が決定するが、その際本人の財産状況と後見事務の内容を考慮し報酬を決定する。第三者の専門職の場合、報酬は月額約1万5千円から5万円程度である。問題は、ケースによって経済的な困難を抱えており、報酬請求が困難であるため、無償、あるいは月額3000円など低額で引き受けている者もいる。ぱあとなあ神奈川(社会福祉士会)に来る依頼の場合、報酬支払が困難なケースが多く、無償で受任している者もいる。組織としては基本的に報酬を支払えるケースの受任に限っているものの、社会福祉士としての倫理的ジレンマが残る。

 現行の公的制度として、成年後見制度利用支援事業がある。横浜市の場合、施設入所者上限月額18000円、その他は月額28000円の報酬助成が支給される。だが、利用できるのは市町村長申立事案等に限定されており、利用しにくいのが問題である。また、この制度は介護保険の予防事業の一環として制度化されていることから、高齢者以外の障害者にとって利用できないなど不備がある。例えば、精神障害者で介護保険を使っていない者等は利用できない。

 報酬の問題は制度の創設当初から懸念されていたことで、制度発足と同時に、司法書士会が委託者となり、専門職後見人の報酬補填を目的とした基金として、「公益信託成年後見助成基金」が創設されている。だが、この基金にも限界があり、助成件数は平成16年度で10件と極めて少ない。報酬助成の制度の創設は、民間のみに依存するのではなく、公的に解決する課題であろう。

③ 医療同意

 現行の制度では後見人に医療行為の同意権を与えていない。これは制度がスタートする際、慎重に取り扱う必要がある事項であるという理由から、決定が見送られた経緯がある。しかし、実務を行う上で、医療行為に関する同意を求められる場面は多く、予防接種など同意せざるを得ない状況に置かれる。医療行為に関しては、いくつかの法的解釈が発表されている。真正面から同意見を認める解釈、軽微な医療行為について成年後見人に同意見が認められるという解釈、そして特別法のなかには成年後見人に対して医療の同意見を与えているとの解釈であるvi(日弁連)。実際、同意せざるを得ない状況が多数あり、一部の医療同意を後見人が行っているケースも多い。医療同意に関する近況と法的解釈に関しては赤沼論文に詳しいvii

 医療同意に関しては実務上の緊急課題であり、日弁連や司法書士会は医療行為を行うことについて第三者の合意に関する法整備と審議機関の整備の必要性を提言している。

(3)本人の死亡後の後見事務処理

① 埋葬までの手続き

 成年後見は、本人の死亡により終了し、成年後見人の権限は消滅するが、実際には様々な事務処理が後見人に残される。
 まず本人が死亡すると遺体の引き取りをしなければならない。本人に親族がいない場合、墓地、埋葬等に関する法律第9条2項によれば、行政が責任をもって行わなければならないとされている。ところが、実際には後見人が引き取らざるを得ないのが実情である。死亡届けについても権限が明記されていないが、本人の死亡から7日以内に届けざるを得ない。葬儀もまた同様である。

 問題は葬儀費用や医療費の支払いなど、本人が死亡した後に生じた費用に関して、預貯金から払い戻しの権限がない点である。実情では成年後見人名義の口座を家裁の許可を得て開設し、葬儀にかかる諸費用他を分けておくしか対応ができない。

② 財産の引き継ぎ

 本人の死亡により財産を引き継ぐ際、相続人がいない場合、相続人が財産の引き継ぎを拒否する場合などは、各種申立などの事務を行わなければならない。また相続人が争っている場合などは、遺産を保管し続けなければならないこともある。第三者後見人にとって、このように遺産を期限なく保管するのは不安が大きい。

 また、これらの本人死亡後の事務に関して、報酬の対象にならないことから、制度の改善が課題となっている。

(4)その他の課題

① 成年後見制度の普及

 すでに述べたことであるが、今後ますます増加すると推計されている認知症高齢者と独居高齢者の生活を考えると、成年後見制度のニーズは潜在的に膨大にあると考えられる。また、自立支援法の成立により、知的障害者や精神障害者の制度利用も推進していく必要がある。しかし、実際はなかなか制度利用にまで至らないことが課題である。

 その背景のひとつに、そもそもなぜ成年後見制度の利用が必要なのかという根本的な疑問を当事者や保護者が持っていることがある。①知っていても活用しようとするほどに契約社会化していない、②メリットについて十分に理解されていない、③任意後見の場合、自己判断能力があるうちに他人に身上監護や財産管理を委ねることに抵抗感があるなどが指摘されているviii。実際、知的障害者施設で成年後見に関するセミナーが開催された際、保護者からなぜいまのままのではいけないのかという疑問の声が聞かれた。法的に使いやすい制度にしていくことが第一の課題であるが、当事者や保護者のそれらの疑問に十分に答えられる行政職員、社会福祉従事者にまず研修を行い、制度への理解を深めてもらうことも課題であろう。同時に、いままで以上に、関係者が市民にわかりやすく制度を伝えていく努力が必要である。参考までに述べておくと、横浜市社会福祉士会は劇団かもめ座を立ち上げ、戸塚区の地域ケアプラザで成年後見劇を上演した。参加者からは制度の概略がよく理解できたとの感想が多数寄せられた。

 一方で、制度の必要性をいくら家族に説得しても利用に結びつかないケースも数多い。その理由としては①申立費用や第三者後見の場合は月額報酬が必要なためお金がかりすぎる、②手続きを考えただけで面倒である、③家族が本人の年金を自由に使えなくなるなどが挙げられる。ここで特に問題なのは家族が本人の年金をあてにして生活をしている場合である。本来はこのようなケースにこそ成年後見が必要であるが、制度の利用にこぎつけるためには様々な介入方法で家族を説得していく必要がある。④本人が同意しない。これはある意味で一番悩ましいケースである。例えば、家族が認知症高齢者本人の年金を使い込んでいる事実が明白であるにもかかわらず、成年後見の利用を勧めたところ頑として「お上の世話にはならん」と拒否し、申し立てできなかったという事例がある。この制度は本人の自立支援を理念としており、本人の意志を無視して勝手に手続きできるわけではなく、まして、家族が本人の利益を侵害している場合は誰も申し立てる者がいなくなる。市町村申し立ての範囲を拡大する必要があろう。

② 成年被後見人の選挙権

 制度が普及しない要因の一つに選挙権の問題がある。現行制度では成年被後見人に対する選挙権は剥奪されている。そもそも新しい後見制度はノーマライゼーションや自己決定の尊重の理念を掲げている制度である。この理念を尊重するためにも選挙権について改正が求められる。

③後見人の養成と供給

 第三者の後見人が選任される割合がわずかではあるが増加していることは前述したとおりである。問題は弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門職の後見人について、供給が需要に追いついていないことである。そこには、それぞれの専門職固有問題がある。例えば、社会福祉士の場合、組織に所属して仕事をしている者が多く、自由に時間をやりくりすることが困難なため、1人が受任する件数に限界がある。また、公的な報酬制度が確立していない現状では、報酬の払えないケースも増加すると思われる。専門職の場合無報酬ではなかなか受任することができない。

 東京都がボランティアの後見人養成に乗り出すという報道ixがあった。一般公募に加え、都内の市区町村が推薦した人を 対象に研修を行い、複雑な法律がからまないケースを担当してもらうという計画である。第三者後見の養成は確かに必要であるが、そうかといって非常に責任の重い仕事をボランティアに任してしまうのは継続性や質の面で非常に不安が残る。従って、例えば後見を引き受けた初期の業務等複雑な手続きが必要な場面では専門家が関わり、月々決まった業務になる段階でボランティアに任すといった、いわゆる移行型システムなど、信頼性の高いシステムの構築が望まれる。

3.まとめ

 以上、成年後見制度の現状と課題について、概要を簡単に述べてきた。実際に、私も成年後見を受任しているが、その業務は多岐にわたり、最初はいろいろと戸惑ったことも多かった。入院費の支払など月々の事務も予想以上に時間をとられ、その割に報酬が期待できないことから、専門職の第三者後見人が不足するのも仕方ないというのが実感である。しかし、繰り返し述べてきたように後見を必要とする者は増加の一途をたどることは確かである。まずは公的制度、成年後見制度利用支援事業の改善が早急の課題であると思われる。一方で、行政と専門職が協働し、今後、制度の普及啓発活動にいっそう努めなければならないと考える。

参考文献
i 産経新聞、2004年6月28日
ii 認知症高齢者数(推計)は、老健局長の私的研究会「高齢者介護研究会」の報告(2003)、による
iii 日本弁護士連合会(2005年)「成年後見制度に関する改善提言」
  
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/2005_31.html
iv 中村順子(2005)「任意後見度の濫用について考える」『実践成年後見』No.12, 24-38
v 知久達哉(2005)「横浜生活あんしんセンターにおける法人後見の実際」『実践成年後見』No.14,47-52
vi 日本弁護士連合会 同上
vii 赤沼康弘(2005)「成年後見と医療行為の同意」『実践成年後見』No.12,75-83
viii 坂野征四郎(2005)「利用者のための任意後見」『実践成年後見』No.14,5-10
ix 朝日新聞2005年10月15日