介護保険と支援費の統合にかかる地方財政負担について

  • 購読する
  • RSS1.0
  • ソーシャルブックマークに登録する
  • はてなブックマークに登録

~事業のマージとパージにかかる粗い推測(推計じゃあない)~

1.はじめに

 支援費制度がスタートした平成15年度から、わずか1年足らずで介護保険制度との統合が論議されている。当事者や関係団体等からは十分な議論がない中で拙速であるとか、様々な意見が出されているが、最短であれば本年10月には具体的な方向性が示され、平成18年度には統合ということになる。

 では、なぜこのような急ぎ足で制度を見直さなければならないのであろうか。その最大の理由が支援費制度の財源不足と言われている。

 平成16年6月22日付け朝日新聞の夕刊に「障害者支援費170億円不足」という記事が踊った。厚生労働省の見解によれば、昨年度の平成15年度最終月の実績に伸率を掛けた粗い推計の結果とのことであるが、いずれにせよ大幅な財源不足となることは明白であろう。

 財源不足の原因については後ほど触れるにしても、財源不足のしわ寄せが市町村に降りかかることは必至である。これでは市町村が介護保険との統合を落ち着いて考える時間を持てそうにない。しかしながら、介護保険との統合論議が当初の予想どおりに進み、仮に18年度統合というのであれば、市町村では準備段階となる平成17年度予算において、様々な準備経費を計上しておくことが必要となる。

 そこで、現段階で想定される介護保険との統合によって生ずる準備作業を大まかに整理することによって、全国3,084の市町村の支援費制度及び介護保険制度の担当者に意識を持ってもらうと共に、各市町村が該当する項目について内部検討し、予算要求なり人員配置なりをご検討頂くことができるよう、情報発信するものである。なお、この論文に記載されている内容については、あくまでも推測であるので、各市町村で内容を取捨選択し、市町村の判断で対応について検討して頂きたい。

2.統合論議の基礎知識

(1)介護保険制度と障害福祉制度について

 現在の介護保険制度と障害福祉制度の関係は、平成12年3月24日付け障企第16号、障障第8号都道府県、指定都市、中核市障害保健福祉主管部(局)長あて厚生省大臣官房障害保健福祉部企画課長・障害福祉課長連盟通知の「介護保険制度と障害者施策との摘要関係について」に基づき運営されている。

 簡単に例示すると、介護保険制度の受給者が障害者施策を利用できる場合、両制度に共通するサービスについては、まず介護保険制度を優先してサービスを利用し、なお、サービスが不足した場合は障害者施策を利用する仕組みとなっている。この仕組みの基本は、1号被保険者、2号被保険者、身体障害者、知的障害者のいずれの組み合わせであっても変わらない。なお、障害者施策にあって介護保険制度にないサービスである、障害者ガイドヘルパーや日常生活支援等は、介護保険制度との関係を考慮せずに給付することができる。

 ただし何事にも例外がつきもので、2号被保険者で生活保護の介護扶助が給付されている場合は、優先順位が異なり、障害者施策の利用を優先することとなっている。生活保護法の詳説は他に譲ることとしたいが、一言で言えば、生活保護法による介護扶助を受給している方は、生活保護法の補足性の原理によって、障害者施策が優先されるのである。

 話を戻して、基本的な介護保険制度と障害者施策の関係を図に示すと、図1のようになる。

図1

介護保険制度と障害者施策の関係図

 要介護認定によって定められた介護保険制度の利用枠内でニーズが賄われる場合は、タイプ1のように、介護保険制度だけで終わることとなるが、ニーズが介護保険制度の利用枠を越えるタイプ2のような場合は、その不足分を障害者施策で利用することとなる。

(2)統合ではなく枠の拡大

 これまでの新聞報道で「統合」という言葉が関係者の脳裏に焼き付いてしまった感があるが、厚生労働省は「介護保険制度の受給者の拡大」と言っている。

 その理由は、障害者施策は従来から介護保険制度が優先され、必要に応じてガイドヘルプや授産施設などの介護保険にないサービスや、全身性障害者に対する介護保険の支給限度額を超えるサービスを給付するという、いわゆる上乗せ・横だしサービスによって給付されていたわけで、この関係について、65歳以上であった対象年齢を拡大する議論をしているからである。

 また、対象者は「障害者」ではなく「若年要介護者」が対象となるということである。

 このことは、市町村が必要と認めた障害者に対する「サービスの種類と量」と、介護保険制度の利用枠とを比較して、必要量が多ければその分を従来どおり障害者施策で給付することを意味する。さらに若年要介護者が対象となるということは、これまで身体障害者手帳を取得できなかった難病等の患者、末期がん患者、高次脳機能障害者等の方も、要介護者であれば介護保険給付も受けられるということになる。

 なお、本編では統合という表現で統一させて頂くこととした。

3.支援費制度の補助金について

(1)財源不足の原因

 支援費制度がスタートする段階で、厚生労働省が「従来と同じ」という説明をしていたことを記憶されている方も多いと思う。では、なぜ支援費制度に財源不足が生じたのであろうか。

 その理由は、児童デイサービスや移送サービスに代表されるように、多くの市町村が支援費制度のスタートと同時に、これまで実施してなかったサービスを開始したからであり、それが当然増につながったこと、そして、障害者や家族の受給権という意識が変化したことにある。

 それだけではない。隠された理由としては、介護保険制度が一人の受給者に対して一つの上限を持つのに対して、支援費制度はサービスの種類毎に支給決定を受け、その上限という規定は制度上定められていないこと、さらには介護保険は遡及決定が出来るのに対して、支援費は遡及できないことにある。その結果、支援費制度は融通が利かない分、ある程度ゆとりを持たせた支給決定にせざるを得ないのであり、その分の利用が行われれば当然給付量が増加するのである。さらには、介護保険制度下における居宅介護支援専門員が存在しないことから、課題分析もアセスメントもない中でサービスが利用されることになり、その結果、サービス利用目的が不明確となり、サービスの利用効果が得られにくくなったということもある。

(2)補助金の性格について

 支援費制度の金の流れを改めて確認してみよう。そもそも、支援費制度は基本的に補助金制度で運営されるため、「予算の範囲内」で「補助できる」仕組みであることから、補助額が所要額を下回っても制度的な問題は生じない。さらに、支援費制度に関する補助金のほとんどが直接補助(国が直接市町村に補助)という形態となっているため、国の補助金の交付率が下がった場合、直ちに市町村で「歳入欠陥」となるのである。市町村にとってみれば、都道府県の負担もしかり、支援費制度の都道府県負担は国と同様に基本的に「補助金」という仕組みであるため、都道府県に財源不足が生じればこれまた歳入欠陥となり、市町村の財源を圧迫することになるのである。

 この直接補助方式は、国は都道府県の財政状況に影響されない仕組みである反面、国の補助率が下がった場合、都道府県がそれを補うことはできないのである。

(3)平成16年度の支援費制度の補助金交付率

 このようなことから、平成16年度の支援費にかかる国及び都道府県の補助について、何%カットされる可能性があるのかを2月補正に向けて試算し、歳入欠陥分を予測しておくことが必要である。

 そこで、補助金の削減率を試算することとなるが、全国の総所要額から係数を作ることになるため、交付率を正確に見込むことはできない。単純計算により概算するのであれば、昨年度の補助額と本年度の補助所要額の乖離分をもって交付率としておく以外方法はない。

 しかし、支援費制度の実施者であり、援護の実施者である市町村としては、安定した財源確保が切実な願いである。この場を借りて、改めて厚生労働省と都道府県の予算確保を願う次第である。

4.平成17年度の予算要求項目について

 仮に18年度から介護保険と支援費制度が統合される場合、平成17年度は多くの準備経費が必要となる。そこで、市町村で発生する可能性がある平成17年度予算要求項目について、粗い予測をすることとしたい。

(1)予測される統合後のたたずまい

 既に社会保障審議会等で論議されている内容を基に支援費制度と介護保険制度が統合された場合、介護の手間を評価する介護保険制度をベースに、さらに必要となるサービスを障害者施策でカバーするといった二層構造になることを前提に整理することとしたい。

 この仕組みは、介護保険制度施行時から行われている介護保険受給者に対する取り扱いと基本的に同一である。正確に言えば、2号被保険者の介護扶助の取り扱いを除けば、仕組み自体は変わらないのである。したがってこの考え方は極めて理解しやすいものであるが、障害者施策でカバーするサービスの財源や、介護保険で要介護認定できない障害者が発生する可能性などの課題は残されている。

 一方、三位一体改革による補助金制度の見直しによって、障害者施策の上乗せ分に補助金の交付が継続されるか否かも整理しておく必要がある。

 このほか、介護保険制度の枠拡大に伴い、新たに加わる高次脳機能障害等の要介護者に対して、介護保険制度の枠だけでよいのか、市町村として必要なサービスを加える必要がないのかを議論することも必要ではなかろうか。そもそも、介護保険制度は市町村において上乗せ・横だしをすることができる仕組みである。現実にこれを実践している市町村があると聞いたことはないが、少なくとも議論は必要ではなかろうか。

(2)認定事務

 支援費制度の障害程度区分の認定がそのまま介護保険制度へ移行すると思ったら大間違いである。厚生労働省の資料から類推すると、介護保険制度の枠拡大というフレーズは、現行の児童を除く支援費受給者のほぼ全員に対して要介護認定を行うことと聞こえる。暫定認定のような取り扱いが行われる可能性は、過去の例から見ても残されているが、少なくとも一斉認定、平準化という手続きに絡み、介護保険制度スタート時と同様の経費と人材が必要となるだろう。

 また、事務が増大するのは介護保険制度のみではない。支援費制度の支給量から介護保険制度の利用枠分を控除する作業が新たに発生することとなる。この手続きは一時的に大きな事務量となってのしかかってくるだろう。

 この手続きを事務手順で整理すると図2のようになる。

図2

支援費制度の事務手順の図

 少なくとも支援費受給者に対する要介護認定が行われなければ、新たな支援費(障害者施策)の支給量を決定できない。

 このとき、読み替えができる暫定要介護認定基準を国が設定すること、つまり支援費がスタートした時のように、施設利用者に対して1年間みなし基準を設けたような方法がここでも採られれば、少しは事務量が軽減できるのだが・・・。

 いずれにせよ、介護保険の要介護認定審査会と同等の手続きを踏んでいないこと、障害程度区分と支給決定量と要介護度の3点すべての組み合わせに相関関係が見出せないことを考慮すると、簡単に移行できるとは思えない。

 また、さらなる問題が発生することが予測される。それは、現状の要介護認定基準では介護保険制度を受給できない知的障害者や視覚障害者、内部障害者等が数多く発生するといった問題で、介護保険料の負担に不満が噴出する可能性があるということである。介護保険制度の創設期には、視覚障害者や、慣れた場所では「自立」となったり場面によって「要介護」となったりする痴呆性老人(「痴呆」に替わる用語に関する検討会が厚生労働省で開催されており、まもなく痴呆性老人という言葉は使われなくなるが・・・)の要介護認定ができないといった問題が発生したが、こういったケースについてどのように評価するのかといった問題をすべて解決した上で、改めてすべての要介護認定を行なうことが必要なのである。

 しかし、要介護認定基準の見直し時期は平成21年度となるため、それまでの間は、新たな「狭間対策」を検討することになろう。したがって、市町村では、少なくとも現行の要介護認定基準に沿って認定した場合、介護保険制度に移行できない支援費制度受給者がどの程度発生するのかシミュレーションしておくことが望ましい。

 しかしながら、この移行にかかる人件費が追加になることは避けられそうもない。仮に支援費制度からの移行組となる認定を要介護認定の専門調査員が行うのであれば、その人材確保と経費が必要になるであろうし、要介護認定審査会の臨時開催が必要となるのであれば、その経費を見込むこととなる。

 また、要介護認定のシステムが導入されている場合は、みなし認定者のような新たな要素の要介護認定結果を登録する仕組みを追加することも考えておかなければならない。また、狭間対策が暫定的に行われた場合もしかりで、登録画面の追加(或いは改修)、表示画面の追加(或いは改修)、データベースの追加(或いはテーブルの追加)、サブルーチンの追加や検証が必要となり、リストの出力まで考えれば帳票設計の追加(或いは改修)が必要となる。低コストに抑えたシステムの改修経費であっても、改修経費は数百万円から一千万円の大台に乗ってしまうであろう(パッケージであれば、改修経費に対して出荷本数に利益係数を乗じた値で除した額になろうが、入れ替えのための現調費用を請求されることを覚悟しておくことが必要)。

 一方、対象者や事務量の増加が現状のコンピュータ台数で充足するかという点、さらにはバージョンアップしたソフトが現状のコンピュータで稼働できるかといった点を評価の上、新たなコンピュータシステムの導入も視野に入れて判断することが必要となる。現在使用しているシステムの納入業者からバージョンアップ情報を得られないのであれば(多分情報はぎりぎりまで得られないだろうが)、一部の判断になるが、介護保険業務に端末が占有されているという現状がある限り、端末の追加が必要になるということである。

 また、ここでの留意点としては、「職員が認定調査結果を入力する作業時間が従来の介護保険の要介護認定と同量であるのか」、「介護保険の受給者にも新たなデータを追加することが必要になるか」、「職員の処理手順が従来より多いのか」といった評価を行なうことが挙げられる。この評価をしなければ、システムの利用時間を予測することはできないのである。さらに、運用開始当初は、障害福祉主管課の職員がデータの確認をして介護保険主管課職員が入力方法やシステムの運用方法を確認することになるため、事務量は市町村単位で言えば単純計算で倍になる。また、双方が慣れるまでの事務処理(ロス)時間を含めておくことも、見落としがちだが重要なことである。

(3)二層構造の制度運営

 障害者一人に対して介護保険法と障害者施策(介護保険の不足分のサービス)にかかる併給調整を行う場合、障害福祉主管課と介護保険主管課のどちらがサービス全体の管理者となるのかを明確にすることが必要である。

 障害者施策のサービス分をすべて介護保険で管理するのであれば話は簡単であるが、障害福祉主管課そのものが消滅することはあり得ないし、障害者のことを十分把握できていない介護保険主管課で追加管理するとは想定できないので、双方の主管課で管理することになろう。このとき、現在市町村に設置されている障害者福祉システムと介護保険システムに対する改修の必要性は出てこないだろうか。

 もう少し説明を加えると、先ほどの図2にある、障害者がタイプ1とタイプ2のどちらになるかは、現状の仕組みで言えば、まず障害者が介護保険主管課で要介護認定を受け要介護度が決定され、次に障害福祉主管課で必要なサービス量の認定が行われ、不足分があればタイプ2、充足すればタイプ1ということになる。この仕組みは、統合後も介護保険と支援費制度の二層構造として残る見込みである。介護保険主管課と障害福祉主管課の連携が密接に行われれば、適切な決定が行われるであろうが、連携が不十分な場合、このような判断も十分にできないであろうし、受給開始後のモニタリングなどは実現からほど遠いということになろう。

 二層構造になった場合のシステムを考えると、一人の障害者に対して必要なサービス量をどこでどのようにして管理するのかといった制度運用を考えなければ、情報管理責任者不在の脆弱なシステムになってしまうのだ。できれば制度上介護保険と障害福祉それぞれの主管課が相手の決定内容を見ながら決定し、それぞれで実施者としての責任を負うのが理想であるが、この様な運用が果たして可能なことなのか考えていただきたい。

 これらのことを念頭において、介護保険と支援費の統合前夜に、全員の決定をシステムで処理するのか人海戦術で処理するのかについて、事務手順をきちんとシミュレーションした上で、想定される事務量を基にあらかじめ選択しておくことが必要である。また、運用開始後の介護保険と障害主管課の連携方法をシミュレーションし、運用後の手順やデータの管理方法を確認しておかなければ、統合前夜の事務処理を無駄にしかねないのである(重大な手戻りになる)。いずれにせよ、移行期からシステムを導入するか否か、市町村において介護保険と障害福祉のネットワークを組むのか、という2点について、事務量という観点で早期に検討しておくことが混乱を避ける最善の策である。

 また、コンピュータシステムの導入如何を問わず、障害福祉主管課で介護保険の給付分を確認できる仕組みやその逆も必要となるであろうから、市町村個人情報保護条例で情報を他部局へ開示(その逆もあり得る)するための審議が必要になるであろう。場合によっては、本人同意が必要ということになるかもしれない。

 この様な検討を経て、システム化を図るという判断をしたならば、次にどの程度の経費が必要になるのかを見極めることになる。介護保険主管課で障害福祉のデータを受け取る仕組みを構築するのであれば、介護保険主管課ではデータベースの改修、データベース検索システムの追加、ネットワーク設計の見直し、更新権限の設定、登録・表示画面の追加(改修)、帳票の追加(改修)等が必要になるであろうから、関係システムへの影響も考慮すれば、その経費は少なくとも数千万円は下らないであろう。また、障害福祉主管課で介護保険の支給決定データを取得(閲覧)する仕組みを作る場合でも、同様のシステム改修が必要となろう。

 仮にネットワークを介さないシステムであったとしても、介護保険と障害福祉のプログラムが別々であれば、双方のインターフェースに共通性が無く、改修なしでは情報の引き渡しができない。そうなるとオペレータが手作業で変換しながら二重に情報登録することとなり、ミスの発生や事務量の増大は避けられないであろう。

5.コンピュータシステムへの影響

(1)介護保険システムへの影響

 先に述べた暫定決定はさておき、普通(特別)徴収対象者の住基データの抽出や税情報の抽出も見直し対象となる。

 また、介護保険制度スタート時に行われた自己負担の軽減措置を制度創設5年後も引き続き行われる可能性があるので、一定の年数が経過した後、自動的に1割徴収に変更するようプログラムが組まれていたのであれば、その部分の改修も必要となろう。さらに、市町村で特別の減免措置などを加えるのであれば、当然大幅なシステム改修が見込まれることになる。

 このほか、受給者番号やサービスコードの桁数が見直しされる可能性も残されており、さらには統計や障害福祉主管課へのデータ連携や統計データ抽出の条件となる障害種別(知的と身体、場合によっては精神、その他)の登録やデータ管理者フラグ等が必要になる可能性もある。

 蛇足であるが、介護保険で同一のサービスを連続して利用することができないが、1ヶ月間ほとんど日常生活支援を利用している障害者が介護保険を利用することになると、どのようなサービス計画を作っていくのだろうか、といった疑問も生ずる。

 このような事例に対して、従来の介護保険制度の運用を一部変更することになれば、居宅介護支援専門員が利用するケアプラン作成システムの改修などといったことも発生しないのだろうか。最悪のパターンは、障害者の場合のみ運用方法が異なることである。高度なチェック機能を用意したシステムであれば、大規模改修を要することになろう。

(2)障害福祉システムへの影響

 障害福祉システムでは、台帳管理システムや支給決定システムの全面改修が避けられないであろう。介護保険制度に移行しないサービスであっても、支援費制度から残るサービスとその他のサービスとに分割して管理することになろう。

 老人福祉施策がそれ自身を包括した「介護予防地域支え合い事業」に移行したのと同様、包括補助の仕組みに変化することを想定しておくことも必要であるが、何よりも三位一体改革により財源見直しも同時に行われる可能性があることに留意しておくことが重要である。このとき、従来のサービスの仕組みに対して、全国共通のサービスとして位置づけられるものと、市町村が独自で実施するサービスとに色分けしていくことになろうが、市町村は独自で統計や集計を取るためのデータ管理を、自らが設計していくことになる。

 つまり、従来のパッケージでシステムが運用できるという保証はないのである。なぜならば、ベンダーとしても、各市町村別にカスタマイズすることが最大の収入源となるのだから、三位一体の見直しが進めばそれを機にベースとカスタマイズというシステム構成に変更して販売する可能性があるからである。

 いずれにせよ、システムで運用できるサービスを考えるのではなく、市町村で真に必要なサービスを組み立てることが重要なのだから、市町村毎に施策の運用が異なるのは当然である。したがって、従来のシステムも大幅見直しが必要となってくるのである。

 また、多くの市町村で行われていなかった精神障害者のデータ登録も必要になる可能性がある。このデータ登録は、市町村個人情報保護条例の審議対象となるであろうし、登録事務の一時的増加も見込まなければならない。また、精神保健主管課への端末設置、これに伴うネットワークサーバ能力の検証等も必要になってくる。

 このほか、全国11か所の自治体で運営している支援費の支払いシステムについては、事業者コードやサービスコード、計算方法等に見直しが発生する可能性がある。特に、介護保険の不足分を支援費等でカバーするという考え方によっては、さらに大幅な見直しが発生するのだ。

(3)その他主管課システムへの影響

 介護保険制度との統合により影響を受ける可能性がある、その他主管課の事務処理やシステム改修について列挙してみよう。

 まず、生活保護主管課への影響としては、2号被保険者に対する介護扶助の対象年齢が下がる可能性が大きい。その理由は、介護保険料の徴収が20歳からとなれば、当然社会保険加入の受給者が増加することになるので、介護扶助対象者に対する事務量と介護扶助支給に係る支出増を見込むことになるからである。

 さらに、システム化されている市及び都道府県福祉事務所等では、40歳未満の介護扶助決定がエラーとなるようなシステムになっていれば即座に改修対象となるであろうし、介護扶助の決定内容に、先に述べた暫定決定のようなデータを登録することが必要となるのであれば、改修は避けられないであろう。

 そのほか、国民健康保険料(税)のシステムについてもしかりで、20歳からの徴収を仕組みとして組み込まなければならない。また、住民基本台帳システムへの影響として、住所地特例が支援費からの移行組として加わる可能性も否定できない。最後に忘れそうなシステム改修は、会計システム、予算システムの見直しである。

 市町村のシステムが成熟していればそれだけ見直しの範囲が広がるのであるが、介護保険との統合による影響範囲の見直しは、一つの主管課で済む問題ではないので、電算システム主管課と密接な情報交換を行い、漏れのない検証と、実行可能性の検討(フィージビリティースタディー)を十分検討した上で17年度予算を立てて頂きたい。

 そして、忘れてはならないことは、各市町村の介護保険料について見直しを行うことになるという点であろう。

(4)市町村合併に伴う影響

 平成16年9月1日の全国の市町村数は、3,084団体であるが、告示済みの合併が成立した場合の市町村数は 2,869団体となる見込みである。まだ具体的な準備を行っていない市町村にとれば、これから合併後の新市町村における制度を一つにまとめる作業を行うことになろう。

 そこで、思わぬ作業量となるのが、各市町村で管理していた障害者等の個人情報データの移行作業である。特に情報項目の整理を行う中で、ある市町村で収集していなかった項目をすべて再調査することとなる可能性がある。合併後にデータを入れればいいといった気持ちでは、いつまでも入らないデータであるということにもなるし、それであれば、本当に必要なデータであったのかをも疑いたくなる。そこで、改めて真に必要なデータ項目を洗い出す作業が生ずるのだ。

 また、介護保険制度と支援費制度の統合となるXデーとほぼ同時期に市町村合併を計画している市町村も多いと思われるが、そういうことになれば、話はさらにややこしくなる。場合によっては、身体障害者、知的障害者、精神障害者等の介護保険制度支給申請が合併事務のピーク時に重なる可能性もあるのだ。この場合、まず旧市町村で認定調査を行うであろうし、不足分のサービスを障害福祉施策で決定することになるのであれば、対象者の調査を行うことになるであろう。そこで心配される点としては、介護保険と支援費が統合する以後のシステムが異なるのであれば、従来の介護保険や支援費のシステムをそのまま利用できるとは考えにくい点が挙げられる。

 しかも、統合後のシステムを、合併前の市町村で事前運用できるケースは少なく、一般的には移行データを表計算ソフト等に登録するといった「事前データ作成」を行うことになるのだが、これがいささかくせ者である。このような運用を行うと、いざ本番システムにデータをセットアップしようとすると、データエラーが大量発生する事例をよく見かける。事前調査を行う職員の意識統一を図り、何度も調査方法と登録方法を統一させるための研修を重ねた上で準備作業に入った場合でも、必ずと言っていいほどエラーが発生するものである。このようなエラーを極端に減少させる方法としては、移行データを単純に市販の表計算ソフトのシートに直接入力するのではなく、入力データの属性や桁数を制限するマクロを組み込んだ登録シートを用いて入力することを奨励したい。

 以上のような事務処理が発生するのであれば、事前入力シートの作成予算を確保することが必要であり、データセットアップの時間はエラー修復期間を十分取っておくことをお勧めする。

6.成年後見制度等の権利擁護関係

 支援費制度施行と同時に、老人福祉施策で行っていた市町村後見申し立てに障害者が加えられているが、申し立て件数は当初の予想を下回っているのが現状である。今後は介護保険制度との統合により、改めて申し立て件数が伸びる可能性がある。

 一方、四親等以内の親族が存在する障害者の申し立ても増加することが見込まれることから、相談窓口の強化や家庭裁判所との連携等を十分に行い、速やかな手続きができる環境を整備しておくことが必要である。

 このほか、市町村個人情報保護条例等の規定を踏まえ、障害福祉主管課と介護保険主管課の個人情報の受け渡しに対して、本人同意が必要なのか、審議会を通す必要があるのか等、市町村の条例手続きを確認しておく必要がある。介護保険制度を優先させて残りを障害者施策で対応するということになれば、本人申し立てですべての手続きが完結できる市町村以外は、この個人情報保護条例等に関する手続きが必要になろう。

7.おわりに

 ここに示した内容は、あくまで私個人が一定の条件を設定した上で立てた予測である。

 したがって、実際の見直し内容が異なれば大幅に予測を誤ることになるが、その場合であっても見直す範囲をチェックする程度として、ここに述べた内容から糸口は見えてくるものと思われる。

 市町村の方に不安をあおるつもりはさらさらないが、少なくともこの程度の問題意識を持って頂き、予算要求に大まかなシステム改修経費や導入経費を載せるための足しにはなるのではないかと思い、情報提供させていただいた。なお、介護保険の介護支援専門員のシステムについては改修を視野に入れることになるのか否かは、現段階で判断できなかったので省略した。

 ちなみに、制度改正が見込まれるときに全く予算要求していなかった場合は、補正予算も簡単に付かないことはどの市町村も同様であろう。転ばぬ先の杖としてご一読頂けることを願って終わりの言葉とさせて頂く。

野本 史男(のもと ふみお)

神奈川県福祉部障害福祉課 身体障害福祉班

【経歴】

昭和54年 神奈川県入庁
知的障害者入所更生施設、生活保護現業員、老人福祉指導主事、身体障害者福祉司、知的障害福祉司、県庁老人福祉課、保健福祉事務所を経て現在に至る

【主なシステム開発】

  • 昭和61年 老人福祉エキスパートシステム
  • 平成5年  保健福祉情報システム
  • 平成14年 支援費支払い総合システム

【主な著書】

  • Q&A 障害者福祉・支援の手引 新日本法規出版株式会社
  • わかりやすい介護保険法の手引き 新日本法規出版株式会社
  • 情報ネットワークの法律実務 第一法規出版株式会社
  • 福祉情報化入門 有斐閣
  • エキスパートシステムの活用知識 株式会社オーム社