介護予防給付の創設と課題について

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1.定着した介護保険

 介護保険制度がスタートして、平成12年に218万人であった要介護認定者が、平成15年4月には348万人となった。これは、介護を必要としている人が安心して暮らすためのセーフティネットとして介護保険制度が定着してきたことを意味している。

 しかし厚生労働省は、軽度の要介護者の多くは廃用症候群が要因となり重度化していると指摘し、介護保険の理念である自立支援の観点から予防給付の内容を見直し、新たな介護予防給付を創設した。
もともと介護保険の法定給付は、要介護1~5が介護給付、要支援は予防給付と区分しており、要支援になった人には予防給付を提供し要介護状態にならない事を目的として設定した。しかし、厳密に言えば介護事故に対する保険制度でありながら、介護が必要になる前の段階の者に対する給付を保険事故とみなして支出する極めて特異な保険制度として制度化されている。

 しかし、その給付内容は、施設入所やグループホームの給付が受けられない等いくつかの制約がある点と、訪問介護や通所介護といった居宅サービスを月に6150単位(要介護1は1658単位)までと限度額を定めている点以外、特別に介護給付と異なったメニューにはなっていなかった。したがって、給付の内容は訪問介護の生活介助利用が多く、軽度の要介護者の廃用症候群を招き、介護の重度化を進めているとの指摘がある。具体的には、軽度の介護が必要な者で、掃除や食事の作成等を本来出来る能力を持ちながら、ホームヘルパー等に任せることによって、自分が持っていた能力を失う廃用症候群を招くという指摘である。この様な例は、本来的な予防給付を改めて提供する必要があるとの議論に発展し、介護保険制度の課題と考えられた。

 被保険者の要介護状態の変化を時系列的に把握して分析すると、要介護2以上の中・重度に比べて、要支援・要介護1の者は、要介護度が「改善」した割合が少ない状況にある(資料.日医川越資料参照)。要支援は、制度上「介護が必要となるおそれのある状態」と位置づけ、保険給付の対象とすることにより、介護が必要となる状態を予防することを目指しているが、所期の効果が得られていないのである。こうした現状を踏まえると、健康でいきいきとした高齢期を送るには、自助努力はもとより、共助の仕組みも含めて介護保険制度における介護予防の意味を問い直し、それが十分に効果的に行われてきたかといった問題に新たにメスを入れ、さらに要介護状態になった場合のリハビリテーションのあり方について検討を加える必要がある。したがって、これまでの介護予防に対する考え方や事業等の大幅な変更を迫るというのが厚生労働省をはじめ、介護給付費部会などの論点であった。

資料.日医川越資料

認定状況の変化 1 認定状況の変化1
注1.( )内はN数
注2.構成割合は、2000年10月時点の要介護度別認定者に対するもの。
日医総研 川越雅弘主任研究員の調査研究。松江広域、出雲市、瑞穂町の被保険者を対象に分析。

認定状況の変化 2 認定状況の変化2
日医総研 川越雅弘主任研究員の調査研究をグラフ化したもの

2.「サービスモデル」の転換

 平成12年にスタートした介護保険制度において基本となっているサービスモデルは、それ以前の措置制度時代に作られたものであった。

  1. サービスの主眼を、高齢者が要介護状態に陥った以降のケアに置いた「介護」モデル
  2. 「寝たきり老人ゼロ作戦」に象徴されるように、脳卒中等により身体障害を有する高齢者を主な対象とする「身体ケア」モデル
  3. 在宅介護においては、家族の同居をある程度想定した「家族同居」モデル
    しかし、厚生労働省及び介護給付費部会は、これから10年を見据えたとき、高齢者数や長命化による要介護高齢者数の増加など、これまでのような受動的な介護ではなく、より積極的な能動的介護として、予防の視点を入れたサービスモデルへの転換が必要とした。

 介護給付費部会報告では

  1. 「介護」モデルは「介護+予防」モデルへ
  2. 「身体ケア」モデルは「身体+痴呆ケア」モデルへ
  3. 「家族同居」モデルは「家族同居+独居」モデルへ

の転換が求められると述べて、こうしたサービスモデルへの転換により、介護保険制度は「持続可能性」の観点から将来の環境変化への対応能力を高め、21世紀にふさわしい制度へ向けて改善を加えていくことを目指しているとした。

 さらに報告書では、提供される介護予防サービスについて、現行のサービスを見直すとともに、新たなサービスとして、介護予防給付として①筋力向上トレーニング、②転倒骨折予防、③低栄養予防、④口腔ケア、⑤閉じこもり防止、⑥フットケアなどを例示した。さらに、介護予防マネジメントについては、市町村がもっともふさわしい責任主体とし、その中心的な役割を「地域包括支援センター」が担い、指定を受けた介護予防事業者がサービスの提供を行う構造を構想するとした。
しかし、これが後に「介護予防=筋トレ」といった誤解を生んだ。具体的には、訪問介護の給付を受けている人が、要支援および要介護1になったら筋トレしかサービスが無くなるとか、ホームヘルプサービスは一切使えないといった類の誤解である。

 介護保険法改正案では、介護予防給付として、介護予防訪問介護、介護予防訪問看護、介護予防訪問リハビリテーション、介護予防居宅療養管理指導、介護予防通所介護、介護予防通所リハビリテーション、介護予防短期入所生活介護、介護予防短期入所療養介護、介護予防特定施設入居者生活介護、介護予防福祉用具貸与、介護予防福祉用具販売、介護予防認知症対応型通所介護、介護予防小規模多機能型居宅介護、介護予防認知症対応型共同生活介護、介護予防支援、介護予防住宅改修が盛り込まれており、形式的には必要性に応じた給付が提供される仕組みは維持されている。

 しかし、具体的な内容については、今後の政省令及び基準の整備によることになる。

図1 介護給付・介護予防給付・地域圏域サービス 図1 介護給付・介護予防給付・地域圏域サービス

3.現状の介護予防サービス体系

 介護給付費部会報告では、介護予防とは、単に「介護保険の対象者となることを防げる」ことだけではなく、「生活機能の低下を防ぐことにより、健康で生き生きとした生活や人生を創ること」であるとしており、その観点から、現行制度における介護予防に関連するサービスとしての、

  1. 老人保健法に基づき、市町村が40歳以上の住民を対象として実施している「老人保健事業」
  2. 要介護認定で「非該当」となった者や要支援者等を対象に市町村が実施する「介護予防・地域支え合い事業」
  3. 介護保険制度において、要支援者を対象とする「介護予防」や要介護者を対象とする「介護給付」として提供されているリハビリテーション等のサービス
  4. 医療保険制度におけるリハビリテーションの一部

 等を見直していく必要があると述べている。

 しかし、これらは現在「介護給付」を除いて、各市町村が政策的な意味をもって実施している事業であるため、介護保険制度に関連する介護予防事業は、自治体によってその取組状況が大きく異なっている。さらに、介護予防概念を超広義に捉えれば、市町村の責務が地方自治法第1条の2第1項に「住民福祉の増進を図ることを基本」とあるように、自治体行政のすべてが福祉政策と言っても過言ではなく、同じく行政の活動すべてが介護予防につながっているとも言えなくはない。例えば、高齢者や障害者に優しい街づくりとして、車歩道の分離や交通信号の改良、建物や交通機関の段差解消等を進めることにより、高齢者や障害者が自分の力でまちに出ることが可能になるとすれば、まちづくりは結果として介護予防と言えるのである。生涯教育やスポーツ、コミュニティ、公園や施設なども同様の効果が期待できるのである。

 しかし、そこまで領域を広げると、出口のない「介護予防とは何か」という問いを永遠に繰り返し続けることになる。また、際限ない介護予防事業にかかる整理検証が必要となるため、当面、介護保険制度で行うべき介護予防事業は、前述のとおり生活機能の低下を防ぐことにより、健康で生き生きとした生活や人生を創ることに役立つ事業、つまり「生活機能の低下防止」に着眼点をおいた事業と規定するのが妥当であろう。

4.介護予防の効果と保険財政への影響

 介護予防政策が定着しない一つの理由として、前述のように明確な定義づけが出来ないことがある。さらに、仮に予防給付をうたって事業を実施しても、その予防効果を証明する根拠(エビデンス)に乏しい実情がある。
これを逆説的に言えば、要支援者や軽度の要介護者が重度化する点についても、明快な因果関係を証明するエビデンスはないとも言えるのである。介護保険制度がスタートして、2年で軽度の要介護者が重度化しているという傾向は、介護予防が行われないから重度化しているのか、加齢にともなう生活機能の低下により重度化しているのか、はたまた他の理由によるのか明快な答えはない。介護予防とは政策目標として位置付くものであり、永遠の課題であろう。

 身体能力を維持することと、生活能力を維持することは異なっており、生活能力の維持のためには、利用者と一緒に買い物に行くとか、一緒に料理を作るとか行為を起こすための動機付けとしての気持ちが重要になるのである。そこでは、能力としてできていても行為として完成されなければ意味がない。したがって、生活が続けられるという気持ちを喚起する訪問介護サービスは、生活機能の維持には重要な手段とも言える。
 これらのことから、明確なエビデンスがない中での今回の制度改正は、厚生労働省が介護予防の必要性に議論をすり替えたもので、実際には財政的負担から制度維持の可能性を危うんでの改定であることは明らかである。「制度の維持延命に大義を与えた」が最も大きな理由であると言わざるを得ない。保険者が市町村であることによって非常に難しい仕組みとなった介護保険制度において、給付の拡大を厚生労働省がコントロールするには、政省令による頻繁な見直しと定期的に大きな制度改正を繰り返えさざるを得ない構造がある。

 今回は、その制度改正の線上に介護予防のマネジメントを導入した。2000年当初の制度設計では、介護給付のマネジメントはケアマネジャーが行う構造を作った。その結果、現場では、良いケアマネジャーとは利用者に支持されるケアマネジャーとなった。しかし、保険財政を維持していくために良いケアマネジャーは、最小限の給付に押さえ込めるケアマネジャーとなる。そこでは、明らかに利益相反の関係が生ずる。適正なサービスの利用は、サービス内容と給付の大きさの両者のバランスなのだが、現在のケアマネジャーの危うい状況からは、どうしても利用者サイドに立ったケアマネジメントにならざるを得ない。このような状況の中で、給付の適正化を図るのであれば、マネジメントについては、ケアマネジメントの祖国イギリスのように公的機関が担うべきであろう。さらに、給付の審査についても、本来的には財政を主体的に管理する保険者がその適正化に向けて努力すべきなのだが、法は給付の内容を審査する職責を市町村に置かなかった。そのため、形式的な国民健康保険団体連合会の審査に寄らざるを得ない実情がある。しかし、それでも保険者個々でみれば、平成17年の状況は、さほど財政的に緊迫しているとは言えない自治体も多く、自治体による保険給付の適正化努力を喚起する手法として、また、国の数少ない制度関与手法として、3年に1度の報酬の改訂や5年に1度の制度の改革が行われるのである。

 それだけに、平成17年の改正は、利用者や保険者からの制度改正の方向性が理解しにくいという素朴な疑問や、利用者からのこれまでの利用が制約を受けるという怒りの声ややるせなさが伝わってくる制度改正と言えよう。

5.介護予防実務上の課題

 したがって、介護予防のマネジメントは、サービス事業者側に置くのではなく、財政運営の責任を持つ保険者たる市町村の責任とする必要があったのである。そこからは、給付の拡大の絵は見えてこない。あるのは、少ないサービスと限度額の設定によるこれまでの要支援・要介護1の給付の縮減であろう。さらに、どうしても足りない部分については、市町村での独自事業の拡大が期待されているのである。

 具体的には、市町村が設置する地域包括支援センターに介護予防マネジメントの責任を負わせる事であり、それは、保険者サイドに置いておけば、給付は大きくならないという考えも透けて見えるものであるが、問題は市町村における保健師や経験ある看護師の実態である。

 自治体保健師活動では、母子保健事業から歴史が始まり成人保健へ拡大した。具体的には、昭和23年から行われた保健所での妊産婦・乳幼児の健康診査に始まり、昭和33年の母子保健センターの設置促進事業や、昭和40年代の母子保健地域活動育成事業などの担い手として自治体に整備されていった。したがって、人口規模の小さな自治体では、母子保健と成人保健とを総合化した保健活動をその業務とし、また昨今、家庭の子育て力の低下や児童虐待など、家庭状況の変化による保健活動は成人保健よりも緊急性が高く、現場の保健師にとって大変大きな負担となっている。しかも、その業務は保健師という国家資格職員が行うため、現場の事務職である管理者がなかなか内容を理解できない実情があり、保健師個人のモラルに任される独善的な保健師活動が展開されてきた例も少なくない。そこでは保健師と管理者、保健師と福祉のケースワーカーの間での相互の理解不足もあり、なかなか連携・協力関係が出来ずに、逆に不信感につながっている例すらある。もちろん、チームケア体制を組んで、総合的にトータルケアの推進に大きな成果を得ている自治体もあるが、そこには、おしなべて全体をまとめられる職員がいて、その職員のコーディネート力によって、かろうじてバランスを保っているのであって、けっして磐石な体制であるとは言い切れない。

 また、成人保健担当の保健師についても、老人保健法による6事業を中心にこなすことが役割ではあるが、老人保健法として対象としているのは40歳からであり、高齢者だけを対象としているのではない。特に、40歳から64歳までは介護保険における特定疾病に該当しない限り介護保険制度を使えないため、40歳から65歳の特定疾病にかからない人に対する保健指導・相談が課題になっている事実があり、ここでも対応は時間と労力を必要としている。こうした背景もあって、保健師活動は、65歳以上の高齢者に特化してこなかった。もちろん、保健と福祉の連携をきちっとした体制を整えて実践している自治体もないわけではないが、これは多くの自治体における課題である。

 こうした状況になったもう一つの理由として、これまでの「介護予防・地域支え合い」事業補助金は、在宅事業費補助金に組み込まれて支出されており、いわば福祉補助金の本流とも言えるものであることから、予算と関連した部署が事業主体となるのが一般的であるため、保健師には「介護予防は福祉の仕事」との認識を生ませていた。平成14年に保健サービスである機能訓練が介護予防に組み込まれ、予算的な裏付けは福祉部門が行い、保健部門が介護予防を意識して業務を実施するというプランは、多くの自治体でスムーズに運営されているとは言い難い。こうした状況の中で、本当に保健師が介護予防プランを作れるだろうかという素朴な疑問への答は見えない。さらに、地域包括支援センターへの移行が期待される在宅介護支援センターが、独自に保健師を用意するのが難しい状況とすれば、今後の実務的制度づくりは、非常に困難な作業となる。

6.地域包括支援センターと介護予防マネジメント

 高齢者が介護の必要性がなく、生活機能の低下を招かないためには、地域での介護予防・生活支援が重要となる。これは、直接的に個人の身体能力や生活能力の向上を目指す事業と、間接的な人と人との支援体制の確立等を行うネットワーク推進事業に分かれる。

 在宅介護支援センターは、在宅生活を支えるネットワークの要となる重要な機関として構想されたが、平成12年の介護保険制度の創設後、役割を見失い、自治体や地域によっては機能していない例は多い。反対に、地域における様々な課題を掌握し、解決に結びつける重要な機関との認識を持って実施している自治体も存在し、その中身はまさに玉石混淆の状況である。

 そこで、厚生労働省では、在宅介護支援センターの将来にわたる姿を描く在宅介護支援センター在り方委員会、さらに在宅介護支援センターの評価基準を示す事を目的とした評価委員会を立ち上げ検討を続けてきた。
平成16年7月30日の介護給付費部会報告では、在宅介護支援センターに虐待や成年後見制度の相談機能を付加した「(仮称)地域包括ケアセンター」の構想を盛り込み、改めて、地域のネットワークの重要性と高齢者の支援体制の強化を提起している。報告書では、「総合的な介護予防システムの確立」や「ケアマネジメントの体系的な見直し」を踏まえ、地域における総合的なマネジメントを担う中核機関として、①地域の高齢者の実態把握や虐待への対応など権利擁護を含む「総合的な相談窓口機能」②「新・予防給付」のマネジメントを含む「介護予防マネジメント」③介護サービスのみならず、介護以外の様々な生活支援を含む「包括的・継続的なマネジメント」、という3つの基本機能を担う「地域包括支援センター」の創設を検討するとしている。

 この「地域包括支援センター」については、実施主体に関して市町村が基本であるとしつつ、その対象とする圏域や具備すべき機能、配置の在り方等については検討する必要があると述べている。この場合、地域における多種多様な資源を十分に活用できるよう、地域に開かれたものにすることが重要となるのである。

 市町村では、今後、こうした「地域包括支援センター」機能を担う機関について検討する場合、現行の在宅介護支援センターの位置をどのように考えるかという問題が生じるが、現行の在宅介護支援センターの中にはその立地や力量の面で、こうした役割を委ねるには十分でないところも多い。したがって、今後、在宅介護支援センターの再編や統廃合、居宅介護支援事業所との機能分担の明確化など改善を加えつつ、市町村を責任主体とし、地域に開かれた地域包括支援センターとして十分機能できるような運営の在り方について検討していく必要がある。

7.地域包括支援センターと地域支援事業

 介護保険法の改正では、介護予防マネジメントを担うのが地域包括支援センターであり、実施は保健師等となっている。それは、総合的な介護予防システムの確立のためには、要支援状態又は要介護状態となる前からの介護予防が重要であり、さらに、要介護状態となった場合においても、介護保険制度内のサービスだけでなく、様々な生活支援サービスを利用しつつ、可能な限り住み慣れた地域において自立した日常生活を営むことができるよう、地域において提供されているサービスに関する包括的かつ継続的なマネジメント機能を強化する必要があるとの考えからである。こうした観点から、現行の老人保健法による老人保健事業、介護予防・地域支え合い事業(予算事業)、保健福祉事業(現行の第175条・財源は1号被保険者の保険料のみ)等を再編し、市町村が行う介護予防事業、総合的に相談に応じる事業、介護給付費の適正化のための事業、被保険者の権利擁護のための事業等を、地域支援事業として介護保険制度内に位置付けて実施することとなったものである。

8.市町村に投げられた課題

 今後の自治体における介護保険事業に関する計画策定が、平成17年度から始まるわけだが、これまで述べてきたように、事業化のきわめて難しい新たな介護予防という課題を含め、平成18年度から平成20年度を期間とする新たな計画を策定しなければならない。介護予防の効果を見込んだ給付の見込み量に関しては平成26年度までと、これも難しい課題である。介護予防自体の概念が不透明であっても、保険料によって財政運営が図られる以上、自治体は確実な制度作りが求められる。大変に厳しく苦しい課題ではあるが、自治体の責任は、これまでの計画よりも一層重いものとなる。

 特に、新予防給付については、附則で2ヵ年の延長も可能になるため、いつから介護予防給付を行うのかについて、早期に結論を出さなければならない。また、計画策定についても、生活圏域を設定して、圏域ごとの要介護者・要支援者を導き出して、必要なサービスを圏域整備計画として策定する責任が市町村に課せられている。その際に、地域包括支援センターの位置付けをどうするかなど、平成18年4月の開始に向けて、整理すべき課題は多く、自治体はすぐにでも準備にとりかかる必要がある。さりとて、政省令や基準などが決まっていない、あるいは予防給付の指定や介護費用報酬の改定が明らかになるのが平成18年に入ってから、といった状況になることが予測できるため、自治体としても事業者としても、手探りの悩ましい状況は続く。自治体は、当然組織と人事を見直して、しかるべき体制を整えていかなければならない。平成12年に制度を立ち上げた介護保険制度と同様の大きな変革である。介護保険は走りながら考える制度とはいえ、まだまだ、走り続けなければならないらしい。


【参考】
1.地域支援事業の内容
地域支援事業は必須事業と任意事業で構成されている。
(1)必須事業(第115条の38第1項)
市町村は、地域支援事業として以下の事業を行うものとする。
①介護予防事業(同項第1号)
要介護者及び要支援者以外の被保険者を対象として介護予防サービスを提供する事業。
②基幹事業
(ア)介護予防マネジメント事業(同項第2号)
要介護者及び要支援者以外の被保険者を対象として介護予防サービスのマネジメントを行う事業。
(イ)総合相談・支援事業(同項第3号)
地域で生活する高齢者の案態を把握し、被保険者及びその家族の相談に応じ、行政機関、保健所、医療機関など必要なサービスにつなぐなどの支援を行う事業。
(ウ)地域ケア支援事業(同項第4号)
専門的知識を有する者が協働し、個々の要介護者の居宅サービス計画(ケアプラン)の検証や介護サービスの利用状況に関する定期的な協議・支援困難事例への指導及び助言等、個々の被保険者に対してさまざまなサービスを包括的に、かつ長期聞にわたり継続的にマネジメントを行う事業。
(2)任意事業(第115条の38第2項)
市町村は、地域支援事業として、以下の事業を行うことができる。
①介護給付費適正化事業
(例)被保険者のコスト意識を喚起する事業等
②高齢者虐待防止事業
(例)高齢者に対する虐待防止のためのネットワーク形成の支援等
③権利擁護事業
(例)成年後見制度利用支援事業等
④家族介護支援事業
(例)家族介護教室の実施等
⑤その他事業
(3)事業規模(第115条の38第3項)
市町村事業の規模は、当該市町村における介護予防に関する事業の実施状況等を勘案して政令で定める範囲内とする。
※地域支援事業を実施する市町村は、当該市町村の市町村介穫保険事業計画に、地域支援事集の内容、量の見込み及び事業費の額を記載。(第117条第2項第2号)

2.地域包括支援センターの創設(第115条の39及び115条の40)
①地域包括支援センターは、第115条の38第1項第2号から第4号までの事業(以下「包括的支援事業」という。)その他厚生労働省令で定める事業(同条第2項の任意事業のうち、地域包括支援センターで行うぺきものを厚生労働省令で規定する予定)を実施する施設。(第115条の39第1項)
②市町村は、地域包括支援センターを設置することができるものとする。(第115条の39第2項)
③地域包括支援センターは、被保険者のプライバシーに関わる情報を有しているため、守秘義務を規定する。(第115条の39第3項)
また、同項の規定に違反した場合には、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金を課すこととする。(第205条第2項)
④市町村は、包括的支援事業の実施を一括して、老人介護支援センターの設置者その他の厚生労働省令で定める者に対して委託できることとする。(第115条の40第1項及び第2項)
※「厚生労働省令で定める者」については、どのような主体が包括的支援事業を行うことができるか、各市町村の実態を見ながら、今後具体的に検討していく予定。
この厚生労働省令で定める者は、包括的支援事業を実施するため、市町村の委託を受けて、地域包括支援センターを設置できるものとする。(第115条の40第3号)
⑤市町村は、介護予防事業(第115条の38第1項第1号)及び任意事業(第115条の38第2項)について、老人介護支援センターの設置者等に委託することができる。(第115条の40)
⑥その他地域包括支援センターに関し必要な事項は、政令で定める。(第115条の41)

3.地域支援事業の財源
①地域支援事業に要する費用については、第1号保険料に加え、公費(国、都道府県及び市町村)及び第2号保険料(社会保険診療報酬支払基金からの交付金)でまかなうこととする。
②ただし、第2号保険料は、介護予防事業の実施により介護保険給付を抑制する効果があることに着目して財源に組み入れるものであり、地域支援事業のうち介護予防事業(第115条の38第1号)について限定する。
③したがって、包括的支援事業(第115条の38第1項第2号から第4号まで)及び任意事業(第115条の38第2項)については、第1号保険料及び公費のみを財源とする。
④国及び第2号保険料(支払基金からの交付金)については、当該市町村の行う介護予防事業の成果等を勘案して厚生労働省令で定める基準に従い補正して交付する。(第122の2、第125条の2第1項)
→介護予防事業で高い効果を上げている市町村については、その一般会計の負担が減少し、効果の低い市町村では、負担が増加。
⑤地域支援事業に要する費用については、利用者又はその者の扶養義務者から、その費用の一部を徴収することができる。(第128条の2)

【介護予防事業の財源構成】

  マクロベース 予防事業効果の高い市町村 予防事業効果の低い市町村
1号保険料
2号保険料
18 %
32 %
18 %
32+α %
18 %
32-α %
25 % 25+β % 25-β %
市町村 12.5 % 12.5-α-β % 12.5+α+β %
都道府県 12.5 % 12.5 % 12.5 %

【包括的支援事業等の財源構成】

  マクロベース
個別市町村
1号保険料
2号保険料
18 %
-
41 %
市町村 20.5 %
都道府県 20.5 %

鏡 諭(かがみ さとし)

鏡 諭(かがみ さとし)

所沢市保健福祉部高齢者いきがい課主幹

【経歴】

  • 1954年山形県鶴岡市生まれ
  • 1977年所沢市役所入庁
  • 企画課、自治振興課などを経て、1994年に高齢者福祉課、1999年介護福祉課計画担当に就く
  • 2000年高齢者いきがい課 2001年4月から現職

【所属】

  • 自治体学会会員(企画部会委員)
  • 日本公共政策学会会員
  • (財)地方自治総合研究所自治体改革プロジェクト委員
  • 日本都市センター自治体法務研究会専門委員
  • 自治体介護保険研究会幹事
  • 埼玉県介護保険サポーターズクラブ運営委員
  • 埼玉県シニアネット研究会委員

【主な著書】

  • 「コミュニティ行政の再出発」松下圭一編『自治体の先端行政』 学陽書房、1986年
  • 「分権推進計画と自治体高齢者福祉」『自治が広がる―地方分権推進計画を読む―』 ぎょうせい、1998年
  • 「介護保険実施に向けた市町村の役割」『月刊新医療』 1999年3月号
  • 「福祉行政と分権改革」礒崎初仁編著『シリーズ図説・地方分権と自治体改革③ 分権改革とくらしづくり』 東京法令出版、2000年

ほか多数

※詳しくは、拙編著「介護予防のそこが知りたい」(ぎょうせい)が、平成17年4月に刊行予定ですので、本稿と併せてご覧ください。