介護保険制度改正と地域包括支援センター
1.地域包括支援センターとは何か
今回の介護保険制度の改正は、これまで真面目に頑張ってきた自治体にとって非常に厳しいものになっている。全国の自治体では、今まさに18年度の予算編成の最中で、苦渋の選択を進めている。
介護保険法の改正によって生まれる地域包括支援センターは、第1義には在宅介護支援センターの統廃合を目的としたものである。さらに、給付の縮減として介護予防概念が持ち込まれ、その新たな介護予防を市町村の責務とし、運営主体を地域包括支援センターにしたスキームには予防給付の拡大構造はない。この部分で、市町村が介護予防給付をコントロールする役割が大きくなることは否定できない。しかし、介護保険制度創設後、引き気味であった介護保険外の地域ケアを改めて市町村の責任と捉え、より市町村が前面に出たケアのしくみを目指すことは、それ自体、間違った構造とは言えない。この部分は、地域に必要とされる問題がある限り、地域の仕組みとして対応しなければならない課題なのである。
しかし、本来市町村が主体的に決めるべき地域ケアを何故、厚生労働省が主導となって推し進める必要があるのか、そこにどんな意味が隠されているのかを考えなくではならない。その点で、今回の改革の最も大きな目的は、財政的な問題にあることは明らかである。
それは、三位一体改革の影響を受けて、それまで在宅介護支援センターの中心的な財源であった補助金(国1/2、都道府県1/4)が削減されたが、前提としての税源移譲に厚生労働省は抵抗し、権限を残した地域支援事業への移行をはかり、さらに、給付の縮減としての予防給付の創設にからむ保険者による給付のコントロールを強化したことがその内容である。
厚生労働省の真の狙いは、新ゴールドプランによって全国で1万ヶ所、中学校区に1ヶ所をスローガンに増やしてきた在宅介護支援センターは、必ずしも思惑どおり機能していない、それに補助金を打ち続ける構造が維持できなくなった。したがって機能しない在宅介護支援センターをふるい落とすためにハードルを高く設定することであり、そのための地域包括支援センターなのである。介護予防という何やら魅力的な概念を実現するための前向きな拠点ではないのである。
(1)在宅介護支援センターに関する議論
厚生労働省がこの地域包括支援センターなる構想を示した時期には、老健局計画課主導で「在宅介護支援センターの在り方委員会」が継続した議論を重ねていた。そこでは、在宅介護支援センターの本来の機能を継続し、活性化するための議論が進められていた。
その在宅介護支援センター在り方委員会さらに評価委員会は、一方で地域包括支援センターの移行が示されながらも、ある意味無邪気に地域にとって必要な在宅介護支援センターを活力あるものにするためには、どのようにすれば良いかの視点で議論を進めていた。なぜなら、本来、在宅介護支援センターが果たすべき役割は大変重要で、制度がどのように変っても地域にとって必要なものでありながら、その役割を認識して地域ケアの中心に在宅介護支援センターを据えて仕組みを作ってきた自治体は極めて少数であり、多くの自治体では、在宅介護支援センターの役割が不明確なまま、介護保険後の5年間を過ごしてきたという実態があったからだ。
在宅介護支援センターは、地域で生活する要援護高齢者にとって、本来なくてはならないものでありながら、問題を認識していない自治体では、明確な役割を示してこなかった。そうした自治体にとって、地域包括支援センターへの移行は、現在の機能しない在宅介護支援センターを廃止する好機であるし、それは厚生労働省との狙いとも一致する。しかし、在宅介護支援センターの評価委員会では、在宅介護支援センターの本来の機能とは何か、その機能が担保されるための仕組みは何か、本来の在宅介護支援センターの姿を構想するための、言いかえれば地域包括支援センターに移行する際の参考ともなるマニアルを作成した。本来委員会では、地域包括支援センターに移行することが明白であるので、正面から地域包括支援センターについての議論を進めた方が有用であったはずだ。結局、評価委員会の役割は、厚生労働省が在宅介護支援センターを存続できない理由付けをするためのアリバイ作りであったのかもしれない。在宅介護支援センターの取り潰しは、既成の事実であった。
基本的には在宅介護支援センターは、地域での必要性や役割が明らかにあり、本来の役割を果たせば廃止などは到底考えられない。地域ケアの実践的な機関として、在宅介護支援センターを自治体の責任として、進めていくのは当然であろう。介護保険制度後、地域ケアをきちんと見据えた自治体は、在宅介護支援センターの制度の中で人々が安心して生活できる仕組みを作ってきたし、それが出来なかった地域ケアの仕組みを作ってこなかった自治体は、人々が安心して生活できるしくみがないということである。これは制度の問題ではなく、地域ケアに対する自治体の取組みの問題なのである。しかたがって、この構造は、たとえ地域包括支援センターに形が変ったとしても、何も変らない。依然として、自治体が地域の問題を把握し、具体的な支援の方法を用意し、実施していくという基本は変っていないから、先進的な自治体は地域の安心を作り、そうでない自治体は、安心の仕組みがないというだけだ。国は、これらの居眠り自治体に対し、補助金を払い続けることは問題であるとのメッセージを発した。それが、地域包括支援センターへの移行なのである。したがって、現状を見ると、在宅介護支援センターできちんと地域ケアを行ってきた自治体には混乱はなく、地域づくりが進むが、これまでサボってきた多くの自治体では、戸惑いと焦燥が広がっているのである。
(2)在宅介護支援センターの不幸な歴史
在宅介護支援センターは、そもそも不幸な生い立ちで、平成2年当時創設された真の理由は、特別養護老人ホームの人件費補助であった。700万円で2名の職員。法人と兼務も可。しかも、建設費補助もあり、中学校区に1ヶ所全国で1万ヶ所を目指すという、新ゴールドプランの目玉として、在宅介護支援センターは急速に数を増やした。さらに、その裏打ちは、在宅事業費補助金であり、700万円の補助金3/4が補助金(1/2が国庫補助。1/4が都道府県補助、市町村負担は1/4)であった。
当時は、特別養護老人ホームの入所者やホームヘルプサービス、デイサービス、ショートステイの在宅三種の神器を受ける際の調査委託や各自治体で行っていた寝たきり老人手当等の調査に加えて、特別養護老人ホーム等の入所相談などが主であり、それなりに業務量はあった。
しかし、介護保険制度により、ケアマネジャーが制度化され、その役割は、大きく変った。
介護保険創設前の平成11年当時、旧厚生省内でも、在宅介護支援センターを存続すべきか議論があり、旧厚生省の強いイニシアティブにより、在宅介護支援センターは制度として残った。しかも、介護予防・生活支援事業として、500億円の補助金が確保された。ただし、その時点の介護予防は、現在言われているものではなく、むしろ、認定に対する非該当対応策としての介護予防であった。
また、ケアマネの報酬の面で、居宅支援事業所が単独で事業運営できるだけの財源を保障できない事情から、居宅支援事業所と在宅介護支援センターの2枚看板が認められた。その結果、自治体が地域ケアや介護予防にまで踏み込んだきちんとした委託をしない限り、受託事業者である在宅介護支援センターは、その2枚看板の一方の報酬の得られる居宅支援事業所業務に多くの時間を費やす結果となった。そこに、制度作りの失敗と改めて在宅介護支援センターの役割を明確に出来ない自治体の責任が問われることになる。
その後、介護保険制度の改正を踏まえ、国の財源も厳しくなる中で、財政的な見直しが進むと同時に、在宅事業費補助金が三位一体改革の俎上に乗せられ、それが補助金の削減につながった。しかし、厚生労働省は驚異の粘りを見せ、介護保険制度改正の中に19%の介護保険財政と40.5%の国が新たに創設する介護予防交付金と都道府県と市町村がそれぞれ、20,25%賄う財源厚生による地域支援事業の包括的支援事業を盛り込んだのだ。この際、老人保健事業としては、65歳以上の「健康診査」及び「健康手帳の交付」事業を65歳未満の老人保健6事業とあわせて老人保健補助事業として残し、平成18年度の概算要求額は、前年の50億円減額の239億円となった。したがって、事実上65歳以上の老人保健4事業は消滅し、地域支援事業の介護予防事業枠に押し込まれることとなった。最も大きな課題であった「健康診査」の介護予防事業の組み込みは、厚生労働省も医師会との調整に失敗したため、概算要求レベルでは「手帳の交付」とあわせて老人保健事業費補助が残り、この組み込みに失敗した分の1%を削り、地域支援事業が18年度については給付費の2%以内とし、19年に2.3%以内、20年に3%以内と数字を設定した。
2.地域支援事業と老人保健事業
あらたに創設された地域支援事業は、これまでの老人保健事業と介護予防・地域支え合い事業の補助金の再構築なのである。
しかし、本来、地域の高齢者が、いつまでも健康で元気に活力をもって生活するために必要な事業は、自治体を中心とした地域で構想すべきであり、それが予算の何%などという決め方をすることは不自然である。
さらに、介護給付に必要とされた財源を、非該当や全く介護の必要のない高齢者に、給付できること自体、介護保険制度としての理論矛盾であろう。保険外の政策は、市町村が自らの財源で地域の健康政策として構想すべきであって、今回の改正は、介護保険制度の基本を歪めることにつながる。
(1)自治体の財政状況
当たり前のことであるが、必要な健康政策は、介護保険とは切り分けるべきである。
しかし、自治体財政状況も大変苦しい現実がある。日本全国どの自治体も人員及び予算については、大変厳しい状況にあり、新規の事業が新年度予算に組み込める状況にない。行政評価や予算のマイナスシーリングは当たり前の状況に、介護予防がどうはまるかという現実の問題がある。
仮に、介護予防の費用対効果が明確であり、揺るぎないエビデンスが存在するのであれば、何をおいても予算化するであろうが、残念なことに、介護予防に対するエビデンスは、世の中を納得させるだけのものにはなっていない。
自治体において、これまで進めてきた老人保健事業と介護予防・地域支え合い事業は、いずれも補助事業であった。老人保健事業は1/2、介護予防・地域支え合い事業は3/4で、これが税源移譲によって一般財源化されると、自治体内部の抗争に晒されることになる。担当課は税源が形を変えて入ってくるのであるから、これまでどおりの金額を要求し、財政担当課は税源には特定の使途がついてこないのだから、再度、プライオリティが付けられるとのせめぎ合いとなる。
さらに、これまで、自治体として積極的に補助金を使って、地域ケアに力を入れて来た自治体が、地域支援事業を給付費総額の2%の枠にはめ込もうとする場合、あるいは、これまでの補助金枠既に越えて事業を行っていた場合、その2%に押し込めるように事業をやめるか、あるいはオーバーフローした分に一般財源を投入して実施をするかとの選択が生ずる。
自治体の財政事情から、基本的には補助事業であったものが、一般財源化されたとはいえ、事業を継続することは大変難しい。したがって、2%の枠に収めるというのが、多くの自治体の選択となるだろう。
(2)既存事業の整理
介護予防にかかる地域支援事業は大きくなる構造にはない。むしろ、事業規模は縮小ということになる。その過程で、包括的事業である地域包括支援センターの設置数も当然影響が出る。財源的に2%に入らないのであれば、本来、人口2万人から3万人に1ヶ所の構想から、本来は6ヶ所の地域包括支援センターが欲しいが、財源から3ヶ所とするといった選択が生まれるからである。
それは、これまできちんと地域ケアを実施してきた自治体には不幸な選択となる。なぜなら、地域での課題をきめ細かく対応するためには、数は多いほど良いに決まっている。あるいは、そうした苦労もなく、仮に6を3に出来るとしたら、これまで地域ケアの構築に力を注がず、地域のネットワークを作ってこなかった自治体であろう。
さらに、その後老人保健事業を行ってきた保健師や栄養士の専門職は、65歳以上の老人保健事業が縮小した後、何を行って行くのか、自治体としてどのような活用をしていくのかという問題の整理が必要となる。
さらに、市民サイドで見れば、最も大きな問題は何をやって介護予防となるのか。具体的にどんなサービスがあるかだ。ここを再度確認すべきである。
一般高齢者の対応策としてパンフレットの配布が例示されたが、パンフレット配るだけでは、要介護状態の改善効果は極めて薄い。この場合、改めて保健師や栄養士が果たしてきた老人保健事業のノウハウを活用することとなる。自治体では、これまで老人保健事業や在宅福祉サービスなどを実施してきたが、これらに改めて、特定高齢者や一般高齢者に対しての介護予防事業としての意味を持たせることが、自治体政策としてどのような意味があるのかを改めて整理する必要がある。政策決定主体は、自治体なのである。
地域福祉は、市町村が地域に適したサービスを提供する責任を持つ領域である。自治体を含めた行政施策は、限られた予算を効率的に執行するために、優先順位を設けるのである。しかも、今日の市場開放、規制緩和、行財政改革、経済不況、人口減少社会の流れは、国民的課題として郵政民営化まで、引き出した。今後一層、公共政策の守備範囲についての吟味は進むのであろう。
従来のように、国が補助金に任せて、事業化をはかる構造はない。エビデンスの希薄な施策の事業化を国から迫られても、自治体によほど余剰の財源がない限り必要性の無い事業に付き合うのは難しい。かつては、給付が増える事だけで、政治的な評価につながっていた古きよき時代もあったが、現在はきちんと費用対効果を明らかにしなくては、評価が得られない時代である。施策の必然性に対する説明責任は当然である。
介護が必要にならない状態は、誰もが望むべき方向ではあるが、介護の必要性は、家族状況や食生活や日常生活や趣味や友人など様々な要因が絡み合う。これらは従来から個人や家族、親戚、地域が大きく関わってきた問題で、これが社会状況の変化とともに、自治体施策として制度化されていったからだ。しかし、個人の嗜好や趣味、食生活まで支援することが適当か。わざわざ、根拠不明の要支援予備軍を引き出すだけでその後の受け皿の無い政策は、公共政策としての範囲を逸脱している。あらためて自治体福祉政策の範囲を明らかにする必要がある。問題はどんなサービスがあるかである。
現行の自治体の実施事業から地域支援事業が、介護保険財政を使う構造では、この他に事業を増やしていくことは極めて難しい。したがって、現実は、これまで実施してきた事業の中から地域支援事業の介護予防プランを組み立てることになるのである。(表1)
表1.介護予防(地域支援事業)事業イメージ
| 事業名 | 既存事業区分 | 介護予防事業 | |||
| 通所型介護予防事業 | 訪問型介護予防事業 | その他介護予防事業 | |||
| 特 定 高 齢 者 施 策 |
運動器の機能向上 | 老人保健事業 | 骨粗しょう症(転倒予防) 健康教育 骨粗しょう症健康相談 総合健康相談 機能訓練(A)、(B) |
訪問相談 訪問指導 |
健康手帳の交付 |
| 介護予防・地域支え合い事業 | 高齢者筋力向上トレーニング事業 高齢者運動教室(いきいき・ゆうゆう) 生涯スポーツ課教室 |
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| 栄養改善 | 老人保健事業 | 総合健康相談 | 訪問相談 栄養相談 |
健康手帳の交付 基本健康診査 |
|
| 介護予防・地域支え合い事業 | 高齢者食生活改善事業 毎日型配食サービス 家事援助サービス |
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| 口腔機能の向上 | 老人保健事業 | 歯周疾患健康教育 歯周疾患健康相談 総合健康相談 |
訪問指導 歯科検診 |
健康手帳の交付 | |
| 介護予防・地域支え合い事業 | |||||
| 閉じこもり予防・支援 | 老人保健事業 | 総合健康相談 機能訓練(A)、(B) |
訪問指導 | 健康手帳の交付 | |
| 介護予防・地域支え合い事業 | 老人憩いの家・老人福祉センター お達者クラブ 公衆浴場・入浴券の配布 |
高齢者見守り相談員 毎日型配食サービス |
長生クラブ 高齢者大学 地域ケア会議 |
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| 認知症予防・支援 | 老人保健事業 | 総合健康相談 機能訓練(A)、(B) |
訪問指導 | 健康手帳の交付 | |
| 介護予防・地域支え合い事業 | 認知症介護教室 老人憩いの家・老人福祉センター お達者クラブ |
高齢者見守り相談員 毎日型配食サービス |
徘徊高齢者家族支援事業 長生クラブ 高齢者大学 地域ケア会議 介護予防認知症予防教室 |
||
| うつ予防・支援 | 老人保健事業 | 総合健康相談 機能訓練(A)、(B) |
訪問指導 | 健康手帳の交付 | |
| 介護予防・地域支え合い事業 | 老人憩いの家・老人福祉センター お達者クラブ |
高齢者見守り相談員 | 長生クラブ 高齢者大学 地域ケア会議 介護予防認知症予防教室 |
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| その他 | 老人保健事業 | 病態別健康教育 病態別健康相談 介護家族健康相談 |
訪問指導 | 健康手帳の交付 基本健康診査 |
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| 介護予防・地域支え合い事業 | 公衆浴場・入浴券の配布 お達者クラブ |
地域ケア会議 緊急通報システム 生活管理指導短期宿泊事業 |
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| 一般高齢者施策 | 老人保健事業 | 薬健康教育 一般健康教育 介護家族健康教育 |
健康手帳の交付 基本健康診査 |
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| 介護予防・地域支え合い事業 | お達者クラブ 高齢者運動教室(いきいき・ゆうゆう) |
高齢者見守り相談員 毎日型配食サービス |
地域住民グループによる支援事業 生活管理指導短期宿泊事業 総合健康相談・毎日型配食サービス 生涯スポーツ課教室 高齢者大学・緊急通報システム 単身高齢者保養事業 高齢者創作品展示会・高齢者福祉バス シルバー人材センター 地域ケア会議 |
||
したがって現行のサービスが基本となる。現行のサービスが基本となるのであれば、これまでサービスを受ける際には面倒なアセスメントを必要としていたかという点が改めて問題となる。
「閉じこもり予防」や「認知症予防」のハイリスク高齢者の施策として位置づく見守り相談員派遣や緊急通報システム、配食サービス、介護予防教室などのサービスを受ける際には、これまで簡単な調査によってサービスにたどりついた。これまで簡易に受けられていたサービスを継続していく場合、エビデンスが希薄で目的の不明確な26項目のアセスメントを行う必要があるのか。具体的な実務を自治体や地域包括支援センターがどうこなしていくのかという問題である。
しかも、「預貯金の出し入れ」や「15分続けて歩いていますか」、「ここ2週間自分が役に立つ人間だとは思えない」などの質問をして、その結果これまでと同じサービスでは、手続きが面倒になっただけ市民の怒りを買うだけだ。仮にどのようなアセスメントを行っても、自治体にはこれまでどおりのサービスしかないのである。ここを確認しておく必要がある。
結局、地域支援事業はこれまでの施策を基本に、介護予防につながるような支援を現場の保健師やケアマネが、意識しながら仕事を行うに尽きるのではないか。
地域で、現場で、何が求められ、何を支援するのかは自治体としての政策の問題なのである。決して、決して国が決定するものではない。
答えはいつも現場にある。ここを自治体の市民、首長、議員、職員が正しく理解すべきなのである。
3.地域で支えるネットワークシステム
ここで改めて、地域を見つめると、地域で安心して暮らすためには、地域の見守りや声かけなど、地域で支えあう仕組みが必要になる。特に一人暮らしの高齢者は増えつづけ1980年には全国で910,000人いたが、2002年には3,405,000人と高齢者の14.2%が一人暮らしであり、1980年の3.7倍になると予想されている。
しかし、従来自治会や町内会を含めた近隣の地域コミュニティには、地域に住む一人暮らしをはじめ要援護高齢者の生活を支援する機能は希薄である。特に都市部において、その傾向は顕著である。また、親と同居して面倒見る。あるいは子供に見てもらうという意識もいまや核家族化など家族単位の縮小によって希薄となっている。
したがって、今日改めて自治体政策として目的を限定した地域相互支援機能を構築していく必要がある。そこには、これまで機能を果たしてきた、民生委員や自治会・町内会などの他に、地域ボランティア、保健師、行政職員などが集まり、地域型の在宅介護支援センターがそれらを束ねて、地域の保健・福祉コミュニティの再構築をし、地域に安心と信頼を作り上げる営みである。これには、ボランティアや各種委員として、あるいは市民としてこの活動に加わる事は、意義のあることである。所沢市の実践を紹介したい。
(1)地域ケア会議の実践
平成12年7月にスタートした所沢市の地域ケア会議は、2年を経過した頃から、ようやく高齢者をはじめとした市民が、安心して生活するための地域ネットワークとして育っていった。地域には、介護保険の必要はないが、一人暮らしや高齢者夫婦、寝たきりや認知症性高齢者をかかえる家族など、身体的な衰えや精神的不安ために、見守りや相談・情報提供など何らかの支援を必要とする高齢者は多い。ちなみに所沢市の一人暮らし高齢者は平成14年4,104人、高齢者世帯員は10,869人で、一人暮らし高齢者の割合は、高齢者47,000人に対して8.7%となっており、10年前と比べると一人暮らしは約4倍、高齢者世帯は約5倍に増えている。
こうした要援護の高齢者に対して、住み慣れた自宅や地域で、安心して生活できるための地域の総合的な支援の必要性は言うまでもない。
(2)最近の事例
では、最近地域で具体的にどのような支援が求められているかを見ると、一人暮らしの認知症性高齢者の支援、精神疾患をもつ高齢者、親子の金銭関係に問題のある例、虐待の疑いがある例など、家族関係や社会経済の変化が問題を複雑化している。市・在宅介護支援センター・民生委員・ボランティアが一体になった連携の必要性は高い。
そうした複雑化した事例は、支援の必要性を引き出すまで、大変手間と時間がかかる。まず支援者を受け入れない。隣近所からの要望があり、本人に面会を求めても、なかなか会ってもらえない。次に支援を必要とするサービスを理解できない。説明をしても、分かってもらえない。さらに費用負担が発生するものについては、費用を払ってもらえないなどの、いくつかの難関がある。さらに、こうした壁を乗り越えても、効果的な支援手段がない場合さえある。まして、家族の支援があれば救いだが、全く期待できない場合は多い。
(3)介護予防へ
こうした八方塞の状況は、民生委員やボランティアなど一人の支援者の力だけでは、対応するには難しい。地域の様々な人が協力して、支援する必要がある。そうした協力体制を作ることが地域ケア会議の役割であり、相互の連携が地域に住む人に安心感を与えるのだろう。ここに、保健師やケースワーカー、ケアマネといった専門職が、地域と協働するしくみが必要になる。この中で、介護にならないための介護予防事業やいつまでも健康で生活することを支援する情報の提供、研修会などを実施すること、地域に住む人と人をつなぐことも重要な役割の一つとなる。
(4)地域ケア会議の構成
地域ケア会議は、介護予防・生活支援の観点から、要介護となるおそれのある高齢者や要援護者高齢者等を対象に効果的な予防サービスの総合調整や地域ケアの総合調整を行ない、地域で生活する高齢者に安心と信頼をもって生活できるように支援をすることを目的としている。
所沢市では、代表者会議、運営会議、地域会議の3層構造の会議をつくり、地域で生活する高齢者が安心して暮らしていけるように安心と信頼のネットワークを作り上げている。 ここで特に地区担当の保健師の力が重要になる。
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◇地域ケア会議組織図◇ |
①地域ケア会議の内容と課題
最も地域に密着する第3層の地域ケア会議では、民生委員・児童委員協議会の地区に準じて、次のとおり各地区に担当の地域型在宅介護支援センターを決めている。これにより、地区ごとの情報交換による連携を深め、ニ-ズの的確な把握とサービス提供の迅速性を確保するほか、寝たきり予防や認知症の早期発見などを含めた総合的・継続的な支援を行っている。
平成12年7月に地域ケア会議を設置した当初は、それまで地域で保健福祉の様々活動をする人達がそれぞれ個別に高齢者に関わってきたこともあり、会議の開催目的を参加者が共有化することや地域共通の支援の目標、具体的な活動を共有化することが難しく、地域ケア会議開催の意味を確認する事が課題となっていたが、次第に共有化が進んできた。今では事例検討を行ない、福祉マップを作成し、講演会を開催する等、それぞれの地域で高齢者に対する情報提供や見守り活動の充実に努めている。今後は、自らサービスを求められない認知症高齢者の掘り起こしやその支援等、個別具体的問題に対する検討が課題となっている。
(5)高齢者見守り相談員の設置
一人暮らし高齢者世帯や高齢者だけで暮らす世帯の増加は著しい、同時に孤独死の防止や緊急時の対応が地域福祉施策として、大きな課題となっている。声かけや、見守り機能は、従来自治会・町内会、家族や親戚、さらに近隣が担っていた。しかし、都市化による人口の流入とベットタウン化は、相互扶助の機能を持つコミュニティの形成を阻害した。したがって、今日では核家族化が進むだけではなく、さらに一人暮らしや高齢者世帯の増加によって、今日改めて対応を迫られている課題である。
しかし、この見守りや安否の確認や声かけは、介護保険の対象にならないばかりか、ホームヘルパーや訪問看護のような専門的なスタッフによる対応を必要としているわけではない。むしろ、気軽に友人が頻繁に尋ねてくるような近隣の暖かい人間関係が基礎となる、助け合い・支えあい型の支援を必要としているのである。
こうした要援護高齢者は、例えば介護保険のサービスを受ける際にも情報がない場合が多く、中には福祉サービスの申請方法も知らない人も珍しくはないなど、何らかの支援を必要とする例も少なくない。これまで、地域で活動してきた民生委員等だけでは、こうした要援護高齢者のニーズに答えるには不十分であり、現実に寂しくて毎日電話をかけてくる高齢者や認知症により判断能力を欠く高齢者の対応には困難である。
また、そのような要援護高齢者に対して「制度を用意してあるから自分で申し込みして」と説明しても、効果を生まないのは明白である。したがって、改めて行政政策として、市民との協働により、要援護高齢者対する情報の提供と安否の確認を行う見守りを任務とする相談員等の制度を必要とする。
この制度は、家族若しくは近隣との交流又は福祉サービスの利用機会が少ない高齢者及び心配される疾病又は身体的障害がある高齢者等を訪問するとともに、安否確認及び話し相手等となることにより、一人暮らし高齢者等を支える制度であって、この事業の対象者は、何らかの支援の必要とする、相談員の訪問を希望する高齢者である。
(6)65歳以上の高齢者に対して行う要援護調査
所沢市は民生委員を通して、毎年高齢者悉皆調査を行っている。これは、地域の中に、一人暮らし高齢者や高齢者だけで暮らす夫婦、寝たきり老人をかかえる家族、歩行できる認知症性高齢者を支える家族など介護の必要はないが、何らかの支援を必要とする人がどのくらいいるのかを掴む調査で、これにより、①一人暮らし高齢者や高齢者夫婦で生活する世帯の緊急連絡先を掌握する。②地域の実情を把握し保健・福祉施策に活用する。③いわゆる介護予備軍の高齢者を把握し、今後の高齢者保健・福祉施策の基礎データとする。④家庭の状況を見ることで、虐待や介護放棄等の変化を捉えるきっかけとする。⑤民生委員による地域での見守り活動につなげる。⑥すべての高齢者に福祉等必要な情報の提供を行なう。ちなみに、この調査の平成16年度の対象者は約5万人である。
この場合、最も議論になる点が個人情報の保護である。住民基本台帳から65歳以上を抽出したデータを民生委員に提供し、それを基に調査を行っている。これに関しては、もちろん所沢市の個人情報保護審査会にかけて承認を得て、実施をしているが、最近の孤独死や虐待・介護放棄の例が毎年数例報告され、都市に住む高齢者の大きな課題となっている現実の問題を未然に防ぐため、地域や家庭を包括的に把握する必要があるとの認識から実施している。
この調査を行うことによって地域に住んでいる人々を正確に把握し、地域福祉コミュニティの再興きっかけとして活用すると同時に、地域に住む高齢者にとっても安心して生活するための一つの重要なツールにもなっているのである。この情報と、地域ケア会議、見守り相談員、地域ケア会議等が有機的に機能するネットワークを形成し、支援する体制は人々に大きな安心感を提供していると確信している。しかし、これらの対応はすべて、人的な対応によらざるを得ない。実際に訪問する意味、情報をマンツウマンで伝える意味は重要である。人が訪問し、人が支える仕組みである以上、そこにボランティア等の力が必要になる。行政だけではこれらのネットワークは完成しない。
しかも、このネットワークを構築するためには、支える側のお互いの人を知り、そして信頼関係をつくる事が前提となる。さらに、次々とその場、その役割による連携のためのプラグラムも開発しておかなければならない、それによって、初めて支えを必要とする者が、相談に結びつき解決による安心を手にし、地域に信頼を持つのであろう。そのためには、信頼のシステムが完成するまでは時間がかかるのである。
4.地域に必要な生活支援機能
このように地域には、明らかに支援を必要とした課題があることは事実である。一人暮らしの認知症や要介護5の高齢者、寝たきりと認知症の高齢者夫婦世帯、障害者1級の娘と精神疾患の親、さらに最近では認知症の高齢者を狙う悪徳リフォーム業者の対応やリストラによって職を失った子供が年老いた親の年金を無心する虐待など、地域には驚くような組み合わせや課題を抱えながら生活している人々がいる。しかも、こうした問題を抱えていながら、家族や親族からの支援はほとんど期待できない。これを誰がどこまで支援していくのか。自治体現場における福祉ニーズは、ここ数年複雑化し、しかも、非常に支援が難しくなっているのだ。
従来であれば、民法に規定する親族の扶養義務から、まずは家族や親族の責任として支援を期待した。しかし、これまでなんとか人々の善意に支えられてきた仕組みも、近年の世帯構成、昨今の経済的な状況やさらに介護や医療にかかる負担により、善意だけでは支えられないケースが増えた。さらに、今日では、虐待のように、家族を善意の組織として見ることが誤りとの事例に遭遇する。
日本の福祉は、家族介護の補填として制度化された。自助、共助、公助といった補完性の原則にのっとって、まずは、家族や親族が出来る限りの努力をし、その後、地域、行政が支援する形を基本とした。
したがって、公的資金をもって行う行政の介入は、利用者にとって非常な努力と苦痛(家族構成や所得調査)を必要とした。しかも、それは、支援すべき対象者の家族や親族まで及んだ。その結果、行政に対するスティグマを生み、最後の最後に、利用者にとって選択の余地のない行政処分としての最低の保障をする形式を維持してきた。
その基準は、機関委任事務として、国が全国一律の基準を定め、自治体は間違えなく業務を実施するシステムであり、それは、本当に支援の必要な人々の生活を支える仕組みとしての成熟した福祉制度ではない。
その未成熟な制度を、現場の人々の努力によって、かろうじてつなぎ凌いでいる危うい構造がこれまでの日本の福祉制度である。そこには、多くの不都合が生じ、何より、依然として不安と、焦燥の中で生活する多くの人々がおり、安心して生活できる装置としての福祉への道は、はるかに遠い。
公的福祉制度は、戦後間もない時期に中央集権的に進めてきた時代から、地域の異なる福祉ニーズを共有し、地域や自治体レベルで必要な支援を構想する時代へと進化しつつある。個々の自治体で地域の実情に応じて支援をすすめるのが、自治体ごとに高齢者保健福祉計画を策定した意味であり、介護保険制度の保険者を市町村とし、給付と負担の関係を各自治体の責任としたのも地方分権の先駆けであった。
介護保険創設時における市民の期待と、その後の数年の評価は、それまでの中央集権的な福祉制度からの脱却を予感させるものとして、非常に高いものであった。地域の課題を、地域で共有し、さらに地域で支援を行っていく。これが市民生活をつくる基本であり、その方向に歩みを踏み出したはずであった。
しかし、平成18年4月に行われようとしている介護保険法の改正は、また、従来型の国が政策をつくり、市町村が従う従来型の政策に逆戻りしてしまった。その意味で、冒頭の措置への回帰という表現もあながち誤りとはいえない。
要支援のアルコール依存症の高齢者にヘルパーをつけることも、同居の親族に精神的な疾患があって、高齢者のデイサービスによってかろうじて生活を維持している例も、虐待の疑いのあるケースの逃げ場としてのショートステイの利用も改正法の中では利用から締め出されることになる。これにより、かろうじて生活を支えてきた現場のケアマネやヘルパー、ケースワーカーなどは、一気に制度に対する不信感を強めることとなった。今後は、現実の運用の中で保険者がどこまで裁量により「適切なケアプラン」の枠を広げていけるのかという問題となる。そこに保健の専門職である保健師の果たすべき役割は重い。
福祉政策を財源だけで語るのは、間違いである。まずは、市民が必要な支援とはなにかを自治体から積み上げていかなければならない。その上で、必要な負担を共有する仕組みが本来の姿であろう。
ここで、自治体(市民、議員、自治体職員、首長の総体)は、改めて、自治体福祉政策の主体として、制度を作り直す努力をしていかなければならない。なぜなら、問題は常に現場にあるからだ。人々の健康や安全、幸せをどう作っていくべきかを、まず自治体が考えていかなければならない。
自治体レベルにおける在宅介護支援センターから地域包括支援センターへの移行の問題は、介護保険制度創設後の5年間で、在宅介護支援センターをきちんと運営してきた自治体とそうでない自治体の差の問題である。問題が現場に、そして地域にある現実は変らない。それに対する、地域ケアの手法も変らない。変るのは名称と財源構成のみである。これまでどおり、市民や関係機関との連携によって地域ケア体制を一層充実させていく必要がある。
自治体の地域ケアの仕組みは、一朝一夕には出来ない大変手間のかかる課題ある。これまでサボってきた自治体が怠慢に気づいて、改めて地域ケアの仕組み作りに正面から取組むところが少しでも現れれば、今回の混乱もそれなりの意味を持つのかもしれない。
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鏡 諭(かがみ さとし)
所沢市保健福祉部高齢者支援課 課長
【経歴】
1954年山形県生まれ 1977年所沢市役所入庁 1977総務部庶務課、1994高齢者福祉課、1999介護福祉課 2000高齢者いきがい課 2006高齢者支援課現職【主な著作・論文】
≪単著≫
『自治体現場から見た介護保険』 東京法規出版刊2001年発行≪代表編集≫
『わかりやすい介護保険法の手引』 介護保険法令研究会編 新日本法規出版刊 2002年発行≪編著≫
『介護保険なんでも質問室』きょうせい刊 2002年発行
『介護予防のそこが知りたい』ぎょうせい刊 2005年発行≪共著≫
『高齢者の権利擁護』 高齢者福祉・権利擁護研究会編 第一法規出版刊 2001年発行
『高齢者介護手続マニュアル』 高齢者介護手続研究会編 2000年発行
『コミュニティ行政の再出発』「自治体の先端行政」 松下圭一編学陽書房刊所収 1986年発行ほか多数



